武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

訴訟王エジソンの標的

2019/6/22 購入、2024/1/26 - 2/18 で読了。おもに広電内で。
500ページ以上あるのにほぼ全ページが面白いという驚異の書。映画的名場面、どんでん返しがありすぎる。

なんで買ったのかは覚えてない。丸善のハヤカワ棚でなんとなく惹かれたから?
しかし訳者あとがきで著者は『イミテーション・ゲーム』の脚本家であったと知り、深く納得した。そら面白いわけやで。

原題は THE LAST DAYS OF NIGHT。それでは伝わらんであろうということで「発明王」をもじった「訴訟王」にしたものと思われる。たしかに『夜の最後の日々』では何の話かわからんか。
実際、対ウェスティングハウスだけでも300件超も訴訟を起こしてたらしいので、訴訟王というのも誇張ではない、どころか歴然とした史実であった。エジソンは「えらい人」そんなの常識、と素朴に思ってた私にとっては驚きだった。そこまでアクが強い、香具師っぽさも持った人物であったとは。
そして発明する仕組みを作った、いわば「メタ発明」もした人であったことも知った。

史実を題材にしており、登場人物はほぼ全員が実在した人物である。
しかしここまで劇的な展開ってあるのか…事実は小説より奇なりとは言うが?!と思ったらやはり編集、脚色したものだった。なので厳密な意味でのノンフィクションではない。
そのネタバラシというか解説は巻末の著者注で誠実に明かされる。

先日知った↓ファラデーの恩師デイヴィーも出てきて(p.56)嬉しくなった。 takeshobo.hatenablog.com

名言たち

各章(72章もある!)の冒頭に科学のいわゆる偉人たちの「名言」が引用されており、これらもいちいち面白い。
(以下、行頭の数字はページ数)

  • 11 スティーブがテクノロジーに疎いのがわからないのか? 彼は売るのが恐ろしくうまいだけだ……。エンジニアリングについて何も知らないし、言うことと考えることの九十九パーセントはまちがっている。――ビル・ゲイツ
    言いすぎww
  • 55 わたしは失敗したのではない。うまくいかない方法を一万通り見つけただけだ。――トーマス・エジソン
  • 112 満足しきった者がいたら、それが失敗者だ。――トーマス・エジソン
  • 191 ひとりになれ――それが発明の極意だ。ひとりのとき、アイディアは生まれる。――ニコラ・テスラ
  • 233 何をすべきでないかを判断するのは、何をすべきかを判断するのに劣らず重要だ。――スティーブ・ジョブズ
    これ有名なやつやね。
  • 255 イノベーションが生まれるのは、廊下で立ち話をしたり、夜の十時半に新しいアイディアについて電話で話し合ったりする人々がいるからだ。(後略)――スティーブ・ジョブズ
  • 260 自分の軍隊を持てないようでは金持ちとは言えない。――マルクスクラッスス
  • 357 革新をおこなうと、まちがえることもある。いちばんいいのは、そのまちがいをすぐに認めて別の革新に乗り出すことだ。――スティーブ・ジョブズ
    エジソンと同じこと言ってる。
  • 371 まずゲームのルールを学びなさい。そのうえで、だれよりも上手にゲームをしなさい。――アルベルト・アインシュタイン
  • 388 科学の核心は、一見相反するふたつの姿勢のバランスを取るところにある。(後略)――カール・セーガン
  • 392 わたしたちが経験しうる最も美しいものは神秘である……この感情がわからない者、立ち止まって不思議に思ったり畏敬の念に打たれたりしない者は、もはや死んでいるも同然だ。――アルベルト・アインシュタイン
  • 403 わたしのモットーのひとつ、それは集中と単純さだ。(後略)――スティーブ・ジョブズ
  • 492 すべての可能性が尽きたときには、こう思うがいい――まだいける、と。――トーマス・エジソン
  • 423 人は先を見通して点をつなげることはできない。後ろを振り返ってつなげるだけだ。だから、将来その点がなんらかの形でつながることを、人は信じるしかない。(後略)――スティーブ・ジョブズ
  • 521 わたしのビジネスの手本はビートルズだ。(後略)――スティーブ・ジョブズ

それにしても本家テスラの愛されっぷりよ。セルビア出身で非常に長身やったそうな。

覚え書き

うまみがありすぎる小説であった。読書中のメモをダーッと挙げとこう:

  • 17 物語化が心を守る
  • 21 「どんな人間がそんなことをできるっていうんですか」「金持ちさ」
  • 52 「糞こそトーマス・エジソンが発明した物だ」w
  • 57 「穏やかで揺るぎない光を作ることなどできるわけがない」と思われていた
  • 62 技術革新を抑圧するのは悪
  • 64 不器用な嘘つきは正直者とあまり変わらない
  • 72 「これがトーマスのやり方です。“正しい答えは何か”ではありません。“まちがってない答えが見つかるまで全部にあたれ”です」
  • 76 とてもゆっくり負けることは、勝つこととほぼ同じだ
  • 92 電気エネルギーがどこから来るのかは“だれも知らない”
  • 101 パンのどちら側にバターがついているのか
  • 103 テスラ「わたしが摂取できるのは、体積の合計が三の倍数になる食べ物だけです」www
  • 107 「EGEの研究所は、発明を育てるところではありません。退屈を育てるところです」
  • 108 最高の復讐は成功
  • 110 金に頓着しない人間にはふた通りある
  • 112 1836年に世界初の特許庁が置かれた
  • 120 そうではなく、まったく仕事をしていなかった点が評価されていた
  • 125 テスラの食事は「水と塩味のクラッカーのみ」!
  • 126 ウェスティングハウスアメリカで最初に「週休1日」を導入
  • 139 「おまえの名声を愛する女を愛してはだめだ。無名の男として愛してくれる女がいい」
  • 139 「父から恋愛指南を受けるのは、ロックフェラー二世から金のやり繰りを教わるようなものだ」ww
  • 186 人間ポールとテスラの連帯感がエモい
  • 186 「アルコーブ」という構造を知った。
  • 215 「朝のコカインはすでに断っていたが」当時は処方されてたのか。
  • 249 デマンス・プレコス、早発性認知症
  • 256 トロイ戦争のヘレネ
  • 258 この男たちの天賦の才はみずから働くことではなく、みずから作った体制を効率よく働かせることに発揮された
  • 261 アメリカ合衆国には反知性主義の傾向があった
  • 282 「スティーブ・ジョブズパブロ・ピカソの名言に対するあやまった解釈」w
  • 326 ポールの子供時代、ほんとうに必要なものはだれでも持っていたが、ただ欲しいだけのものはだれも持っていなかったものだ
  • 333 ここからの展開が恐ろしく面白い。
  • 341 嘘は正しい挑戦を可能にしただけだ
  • 347 アグネスの洞察、人を見る目。すばらしい!
  • 351 「ニューヨークでは、弁護士の開業にはどんな試験もいらない」すごいな19世紀
  • 352 「最初の子を売らせる」? ちょっと意味がわからない
  • 398 父親は綿摘みに明け暮れたが息子は電力を操れる、そんなアメリカに住みたい
  • 401 問題にぶち当たったとき、ミスター・テスラは真っ先にそれを分類させる
  • 402 電話!!
  • 405 アリス・ブーンとピーター・シェルドンww
  • 406 ベルの妻はメイベル!「佐倉桜子」みたい
  • 408 『結婚なんてつまらない』を歌ったw
  • 413 それが勝利だよ
  • 464 「きっと<サリーおばさんの電気店>あたりにするんでしょうが」ww
  • 493 「会衆」という言葉を学んだ。
  • 494 勝ち目があるのはいつでもヘンリー・ジェインのような人間だ
  • 517 高級レストラン<デルモニコス>にテスラ専用席があった!
  • 526 「フォードは事業計画なんてものを持っている」
  • 545 謝辞も具体的ですごい。