武書房

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ペスト

2024/3/13 - 4/22 で読了。
コロナ禍初期に買って、例によって数年積んでて、(『ありきたりの狂気の物語』で存在を思い出して)今回やっと読めた。
重厚な大作だがむちゃくちゃ面白く、はたして人間にこんな凄いものが書けるのか…!?と圧倒されっぱなしであった。

悪質な感染症の蔓延という一種の極限状態に置かれた人間たち、それぞれの葛藤や変容。終わりが見えない苦闘の中で疲弊・麻痺していく心身、希望と絶望のせめぎ合いなどの描写がたいへん迫真的。人間に対する洞察の鋭さ・深さと筆力が凄すぎ、古典的名作とされてきたのもうなずけた。1947年の刊か。
そして「ああ、『シーシュポスの神話』の作者か!」と納得した。「でもやるんだよっ」精神。
さらに、同著者の最後の作品が『最初の人間』(残念ながら未完。宮崎嶺雄氏による1969年の解説では『最初の人』となっている)であった、というのもまったく自然な、これ以上ないほど「正しい」ことのように思われるのである。

三島由紀夫の端正な文章に衝撃を受けた時をちょっと思い出した。あっちは原語でこっちは翻訳という違いはあるが。
やたらと長い・複雑な文では中上健次も思い出したがw
大岡昇平『野火』の印象も思い出した。科学技術が未発達な、現代からはある種「野蛮」と見なしてしまいそうな時代においても、人間は十分に繊細で思索的であったのだなという。

しびれたところメモ

多すぎて抜粋するだけでも大変。

  • 7 時間と反省がないままに
    渋すぎやろもう出だしから!w
  • 9 美観もなく、植物もなく、精神もないこの町
  • 24 癤瘡(ねぶと)
  • 27 「最も簡単な言葉で話すくせに、いつも言葉を捜しながらしゃべっているように見えた」グラン
  • 32 一陽来復
  • 35 人づきがよく
  • 36 タルーの説明おもろすぎるぜカミュ兄さん!「愚劣な都市計画などについての好意的な考察」ww
  • 39 艀舟(はしけ)
  • 53 「世論というやつは、神聖なんだ」引用されてそうな台詞
  • 54 ペスト、襲来
  • 55 戦争は「長くは続かないだろう、あまりにもばかげたことだから」と言われる、しかし…
  • 56 人間中心主義者(ヒューマニスト)の陥穽。
    人類の正常性バイアスの話。現代人はもっと学んでいる?
  • 59 もし人間が同時に幸福かつ陰鬱でありうるものなら
  • 64 「一人の人間の個性の伸長に関する何か」w
  • 67 「いいうべくんば」!
  • 76 ペスト会議。論点についての議論、面白い
  • 103 不安を予期して回避しようとする人間の繊細さ。ここで『野火』を思い出した
  • 104 ペスト=嫌なルートに閉じ込めて後悔させる装置 でもあるな。
    こっから妙に「うべな」う多いw
  • 106 みずからの感情を一種熱病めいた客観性をもって考察
  • 109 あり来たりの感動や市販の商品みたいな悲しみや、十把ひとからげの憂鬱
  • 132 同情がむだである場合、人は同情にも疲れてしまう
  • 143 パナルー、雄弁な詭弁
  • 149 「出版屋の連中も事務所では帽子をかぶっていない」w
  • 150 接続詞に悩むグランに共感
  • 153 「この文章を常套的なものに、わずかながらとはいえ、ともかくも近づけている」良い批評w
  • 155 はなはだしい嫌忌をもって
  • 156 形式屋、方式屋、慣例屋
  • 161 愛⇒所有
  • 164 病疫による大きな革命
  • 169 災禍の初めとそれが終ったときとには、人々は常に多少の修辞を行うものだ。第一の場合には、習慣がまだ失われていないのであり、第二の場合には、習慣が早くも回復されているのである
  • 171 「浮世離れのした生活」!
  • 175 《当店では、食器は煮沸済みです》
  • 176 ラヴァリエール・ネクタイ
  • 192 「美しい行為に過大の重要さを認めることは、結局、間接の力強い賛辞を悪にささげることになる」ww
  • 193 最も救いのない悪徳とは、自らすべてを知っていると信じ、そこで自ら人を殺す権利を認めるような無知の、悪徳にほかならぬのである
  • 197 グランの造形も見事と言うよりほかない。
  • 201 仕事は上の空、社会奉仕に精を出し、創作にうつつを抜かす。わかる。Nowhere Man のようでもある
  • 203 「慣例的な言葉」にイライラする現場の医師
  • 229 「アルコール飲料がまだ出されている」当時から「自粛」という概念があったとは!
  • 245 これは誠実さの問題なんです。
  • 249 「それでもまだ俺以上に束縛されている者があるのだ」
  • 255 寂しい埋葬。コロナ禍でも同様であったろう
  • 259 終局的な混交
  • 265 通り過ぎる道のすべてのものを踏みつぶして行く、はてしない足踏み
  • 267 ペストが常態になり無感動になった人々。
  • 273 「罪悪か処罰のようにみのりのない」愛
  • 275 絶望して考えなくなった人々
  • 280 (人情が)毎日また同じことを始めるために役立っていた
  • 282 僥倖は誰の味方でもない
  • 283 「コタールとペストとの関係」。「希望は、疫病。」みたいなもんか
  • 287 身の不ため
    半ズボンのボタン一つなくしたことを嘆き悲しむような彼らの感受性
  • 293 かつて、いっときも時代錯誤でなかったことはないにもかかわらず
  • 307 しかし、自分一人が幸福になるということは、恥ずべきことかもしれないんです
  • 325 このへんカラマーゾフちっく
  • 327 「奇妙な計算を根拠としていた」。ノストラダムス!「その複雑さからあらゆる解釈が許されるような一連の出来事」w
  • 332 操持
  • 335 聾(みみし)いて
  • 336 「道学者」当時知られてたのか。
  • 347 みんなが忘れたいと思っている闖入者
  • 351 ある種の示威
  • 368 最も卑劣な殺人
  • 373 天然のペストから人為的なペストへ。凄い
  • 374 僕はこの頑強な盲目的態度を選んだのだ
  • 387 ある言葉づかいなど、忘れてしまっているものがあったのである
  • 395 福音としての鼠
  • 409 彼女はただ、ふだんよりも少し余計に自分を目立たせぬようにしただけであり
  • 415 人間が意気地なしになるような時刻が、昼夜ともに、必ずあるものだし、自分が恐れるのはそういう時刻だけだ
  • 440 幸福のあらゆる誇らしさと不法さをもって
  • 445 人間を越えて、自分にも想像さえつかぬような何ものかに目を向けていた人々すべてに対しては、答えはついに来なかった。