武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

さいごの色街 飛田 (新潮文庫)

たしか Twitter で見かけて長年気になってはいたのだが、買うには至らず。文庫版が出てたことを最近知ったので、年末年始用についに購入。
実家で大晦日から読みはじめ、広島の自宅で2021/1/4読了。

さいごの色街 飛田 (新潮文庫)

さいごの色街 飛田 (新潮文庫)

いやーたしかに、すごかった。
何が凄いって、筆者の取材力というか根性。「飛田新地料理組合」、ヤクザの組事務所、西成警察署、といったいわゆるアンタッチャブルな、テキの本拠地に体一つで乗り込んでいく。丸腰で。
そのためらいのなさ、戦場カメラマンのような思い切りの良さが、読者としては痛快ではあるがヒヤヒヤもした。ヘタしたら殺されるでと。
この偉業とも言える取材を成し得たのは筆者の人柄によるところ、「気さくな姉ちゃん」やからってとこが大きいんではないか。

そしてもちろん、めっちゃ面白い。「遊郭のしくみ」を探る大冒険!みたいなRPG風ドラマが繰り広げられ、隅々まで濃厚。
と無邪気に楽しむのは後ろめたくもある。そこは人身売買という歴然たる人間性への犯罪がなされてきた場所でもあるので。『親なるもの 断崖』と同じ世界やな。
「情緒と人情味の街」だの「昔は大らかで良かった」だの、「軍隊には慰安婦が必要」だのといった戯言でごまかせるものではない。

ともかく。たぶん私は関わることがない世界でしょうが(犯罪性がなけりゃねー)、面白く、勉強になりました。

読書メモ

  • p.127 海外でも話題になった進歩的な『飛田遊郭反対意見』
  • p.132 前途遼遼=前途遼遠?
  • p.142 『売られ行く女』貴重な資料。
  • p.153 八日市の畜生堕ち儀式、壮絶。
  • p.198 対警察の「模擬テスト」! 周到
  • p.229 「亡八」
  • p.287 「この商売してよかったと思ったことは、これまで一回もなかったね」
  • p.289 「ニッセイのおばちゃん」界の広さ。
  • p.324 (当時流行ってた“草食系男子”について)「あんなん新しい言葉をつくって売りたい奴が勝手に言うとるだけの言葉やろ。あほらし」

文庫版あとがきに出てくる「Yさん」が語った言葉が、重い。

今も私は母親と飛田を憎んでいますが、飛田という町の存在とあの人がいなければ私はこの世に存在しないのだから、複雑な心境です。