武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

人類が知っていることすべての短い歴史(上)

2023/12/18 - 2024/1/4 で読了。
たしかビル・ゲイツ(いや成毛眞さんか)が推薦してるのを見て2015/1/24に(!)買ったものの、いかにも壮大でしんどそうだったので積んでしまってた。
このたび年末ってことでついに読みはじめてみると…壮大には間違いないが、めちゃくちゃ読みやすくて、面白すぎて正直困った。

体裁としては一般向けの科学読み物、教養書・啓蒙書に分類されるのだろう。懐かしの『ソフィーの世界』の物理化学版を圧倒的情報量でお届け!という趣もある。
しかし
「こういう考え方があるんだ!と新鮮で、気付きが多かったです。今後の人生に活かしていきたいと思います☆」
みたいな生ぬるい水準の話じゃない。もっと根源的な、例えば「実はこの世界は16bitマシンのゲームで、俺はその1キャラだったという事実を思い出した」ぐらいの衝撃、文字通りパラダイムシフトを促す凄い本であった。

地球の歴史が46億年、宇宙が137億年?、1mol が1023個、とか私も知識としては一応知ってはいたはずなのだ。しかしそのとてつもない長さ、大きさ、小ささというのが、実感としてはあまりなかった。「想像を絶する」ので想像すらしてなかったのかもしれない。
もちろん今もそんなもん正確にはわかってない。「宇宙のサイズが肌感覚でわかるようになりました」という話じゃない。

しかしこの本を読んだ今となっては、以前のように肉体を持ついち社会人然として生きるのが難しいような気さえしている。人類が「風の前の塵」なみに脆く不確かな存在であることを再認識してしまったので。なんせこの体にしても、「原子を大聖堂の大きさにまで拡大しても、原子核は蝿くらいの大きさしかない」(p.285)ほど隙間だらけの原子でできてるのだし。

いかに他人や自分が決めた必然性のない・時空限定的なルールを熱心に信奉して生きてきたか、ということに気付かされた。肉体的・時空的制約を持つ自分、人類、文明といったものの「範囲」の捉え直しを迫る本である。「思考の次数が上がる」というのはこういうことを言うのではないか?
ファラデーの時代あたりまでは自然科学も Philosophy と呼ばれていた、その理由を納得できた気もする。

宇宙の途方もなさ、原子の捉えどころのなさにはまさに圧倒される。まだ何もわかってないに等しいのかもしれない、でもここまでわかった人類が凄いとも思う。
「人生は奇跡的な偶然の上に成立してる一時的なゲーム。そう思えばもっと挑戦的に生きられる!」
のような自己啓発書的「学び」を得ることも可能ではある。ただ、なんかもう、明らかにそういうのを超える世界への扉を開いてくれる本なのだこれは。

また、単なる固有名詞・事実の羅列ではなく、科学者たちの悲喜交々なエピソードを交えて生き生きと描かれているのでむちゃくちゃ面白いし、取材量がすごい。
教科書に載ってる偉人たちももちろん出てくるが、不遇にも歴史の中に埋もれていった人たちも取り上げてくれているのが嬉しい。(それでもこぼれ落ちてしまった unsung な人たちもきっと多いのだろうが)

  • ニュートンの超絶やばさ(良くも悪くも)に感銘を受ける(p.100~)
  • キャヴェンディッシュもそこまで多才な超天才で奇人であったとは(p.127)
  • アインシュタイン「(ノートを持ち歩く)必要はありませんよ。着想を得ることはめったにないですから」(p.250)
  • 神童ドルトンさん、12歳で学校の責任者になる(p.275)
  • ハイゼンベルクマトリックスとは何なのかさえ、わたしにはわからない」!(p.291)

同時に災害への恐怖も強くなった。

  • 東京は「死を待つ街」と言われてるらしい(p.411)、恐ろしい。本書は東日本大震災の前に書かれたとはいえ、まだ「富士山」がある
    …と思ってたら能登地震が起きてしまった。
  • イエローストーンの超火山が爆発したら地球滅びそう(p.437)。怖い。
  • 隕石が衝突したら地球滅びそう(p.395)。怖すぎる。

人類は今すぐ愚かな戦争やめてそれら破局の回避策を考えるべきやろー(宇宙船地球号!)、と思うのだが。

その他小ネタ

私なぞが言うのもおこがましいですが、訳も正確かつ読みやすくてすばらしい。
例えば p.344「加速的」、これ「加速度的」という(間違った)表現のほうがはるかに普及してる。もちろん「性癖」も本来の意味で使われている(p.101)。

ちなみに今回の帰省ではこの上巻だけ持ってったのだが、原注が「下巻末」にあるので読めない!のがかえって良かったかも。いちいち行ったり来たりせずにサクサク読めるし、別に原注を読まなくても内容は十分理解・享受できる(まだ読んでないし)。

  • p.55 冥王星 Pluto の由来が面白い
  • p.108 「ハレーには『魚の歴史』が支給されることになった」ww
  • p.273 原子の寿命は1035年とも言われてる…それ永遠やん

〈脳と文明〉の暗号

2023/11/5 - 12/29 で読了。
サザンの名曲「01MESSENGER」をちょっと偲ばせる表紙。あの池谷先生が帯で褒めてるぐらいなので間違いはなかろう…と読みはじめた。

たしかに面白かった。「暗号」というのはやや超訳(≒跳躍)が過ぎるかもしれないが。

「言語や音楽は、自然界を模倣している」というのが本書の主張。1~2章で言語、3~4章で音楽を扱っている。
これはいわゆる「芸術のお手本は自然」みたいなレベルの話ではない。言語や音楽を構成する要素のほうが、自然界で起きる様々な現象に酷似しているという驚くべき説なのだ。

我々は日々当たり前のように文字を読む。文字なしの生活、文明など考えられない。文字を読むことはまるで人類の「本能」であるかのようにすら思える。
しかし、人類の長い歴史の中では、文字がなかった時代のほうがはるかに長いはず。読み書きなんていう「曲芸」を、人類はどうやって・いつの間に獲得したのだ?
……文字を読み書きできるよう「になった」んではなく、もともと知覚できてたようなものを「文字」(≒言語)にしたんでは?!!
という発想から、言語がいかに自然界の音(ぶつかる、すべる、鳴る)に似た要素で構成されているか、を地道に検証していく。そのだんだん仮説が裏付けされていく過程が面白い。

では「音楽」の起源は?!と気になった人は本書を読んでみるといいと思う。(残念ながらセックス音ではなさそう)

気になったところ

  • p.15 ホモ・チューリンギピテクス
  • p.61 努力すれば毎分750語近く話せる!? 12.5 words/s ??
  • p.64 液体をばっさり除外するのは乱暴では?「ドボン!」「ぱしゃっ!」とかあるやん
  • p.74 この三種類で本当に必要十分なのか?
  • p.94 内破音
  • p.101 破裂音が有声か無声かによるVOTの違い このへんから「科学的」っぽさが増して面白くなってくる。
  • p.104 「とくに t と k は、有声の文字より複雑な構造」かぁ? d と g も同程度では?
  • p.107 bad と bat の母音の長さの違い。bad のほうが長くなると言うが…英語話者なら同意するのか?
  • p.149 日本の「止まれ」の道路標識 = V
  • p.155 音楽の四条件?「脳、感情、踊り、構造」は(同意はできるけど)唐突感ある。根拠も示されてない
  • p.175 earworm
  • p.196 movement = 楽章
  • p.201 音楽はリズムが命…Dr. Capital!!
  • p.255 メロディー=ドップラー効果起源説。自然音のドップラー効果にそこまで「彩り」はない気がするが?
  • p.258 tessitura
  • p.348 「(動作主が)直進しているときは、(音高の変化は)下方向しかありえない」が理解できず。自分に近付いてくるときは上がるのでは?

残念なところ

やけに「逆」な間違いが多かった。もしや横書きの原書を縦書きにしたときに間違えた?

  • p.108 縦横の説明が逆では?
  • p.221 付点四分音符と八分音符…少なくともどっちかは拍子に合ってるのでは?「合っていない」の定義がよくわからず。
  • p.244 (a) 音高は最も高い低い
  • p.292 ×役不足
  • p.302 35「ニュートンの音楽第一法則」の説明が左右逆!
  • p.352 図表49内の説明が上下逆!

ストーリーとしての競争戦略

2023/10/22 - 12/17 で読了。
非常に面白く、ためになった。もっと早く読んどきたかった!
ぴったし500ページの本文を読み終えた時は不覚にもちょっと泣いてしまった。

著者のことは4~5年前には知っていたが、売れっ子学者ということでなんとなく「時代の寵児」的な人かな?と食指が動かなかった。
完全に読まず嫌いであった。知れて良かったと今は思う。

目から鱗の連続、というか、こういった知識が自分には「全然なかった」ことに気付かされ、愕然とした。
いや大前さんや堀さんの本は20年前から読んでた。ITストラテジストの勉強でSWOTだの5Fだの minimax だのの知識もあった。仕事で「戦略立案」の真似事のようなこともしてる。
でもそこには「ストーリー」が一切なかった。「無味乾燥」な、それっぽく見える「アクションリスト」(KPIすら曖昧な)を「嫌々」作ってただけだったのだ。
私は SP (Strategic Positioning) と OC (Organizational Capability) の区別すら意識してなかった。運転免許持ってないのにタクシー運転手してたようなもんや!

今年読んだ(夏か…)この本と重なる部分も多かった。 takeshobo.hatenablog.com イノベーションスタックによりOCに厚みをつける、そうすると他社には簡単に真似できない。
自分にとって「完璧な問題」を解決したいという切実な動機がすべての起点。それがSP的優位ももたらす。
というふうに『ストーリー』の語彙でも語れる。
そして『ストーリー』のほうが(11年前に出た本であるにも関わらず)よりメタ戦略論的に、まさに「ストーリー」として語られていて、包括的に理解できると思った。
読み物としては『イノベーションスタック』もめちゃくちゃ面白いです。

私も(書|描)かねば。自分の「ストーリー」を。

例によって覚え書き

本文

  • p.70 イヤな言葉ですが「勝ち組」とか「負け組」とか ここで「この人は信頼できる」と思った
  • p.94 私自身が喫煙者なので 好感!
  • p.125 最たるもの
  • p.162 良い厨房
  • p.204 品質改善を行動する?
  • p.372 単純な仕事
  • p.377 「排除の論理」防御では?
  • p.379 企業間の競争に「おいて」では?

注記

  • p.14 絶妙なタイミング

青野くんに触りたいから死にたい(11)

2023/11/25 読了。昨日丸善に入荷されてたので買って帰った。

11巻はホラー的というより、壊れた・閉ざされた家庭の禍々しさが淡々と・執拗に描かれ、違う方向で怖い。ゴミ屋敷の描きっぷりも丁寧。
情緒不安定、理不尽な叱責、圧倒的「弱さ」に満ちた母親。この家族に生きる知恵を与えたくてたまらなくなる。

でもこういう家庭がいっぱいあるのだろう。漫画では美しい部分もあるけど(みんな美男美女やし)、もっと陰惨で暴力的で救いがない現実が。
祖父の大らかさにちょっと救われる。

モサド 暗躍と抗争の70年史

2023/10/10 - 11/2 で読了。
買って数年積んでたけど、このたびの危機に際してさすがに読んどかねばと思った。

面白かった。モサドといえばイスラエルが誇る世界最強のエリート機関!みたいな印象を持ってたが(ノビー史観)、アマンやシャバクとの縄張り争いがあったり、けっこう一枚岩ではないということがわかった。
イルハンメル(苦渋の夜)、第四次中東戦争の初動などの失敗も数多くあった。完璧な組織などないということだろう。

イスラエルがものすごい戦闘国家であることも改めて思い知らされた。生き延びるために報復・暗殺は当たり前、行動原理ほぼヤクザやん。
ホロコーストがあったし私はユダヤ人に同情的だったが、今回のガザでの非道ぶりを見るとそんな生ぬるい感情は持てなくなってしまった。
(もちろん大多数のユダヤ人は平和を望んでるはず。イスラム教徒も。)

覚え書き

  • p.41 最高学府 よくある誤用では? イスラエルには複数の最高学府がある。
  • p.51 アヴラハム・ダル 綴り調べようとぐぐっても出てこない。英語やと Avram Dar みたい
  • p.80 「指揮官が現場で直接作戦行動に参加することは理解できない」w
  • p.91 「上官から信用されていなかったため、いつも彼のミグには燃料が満載されることがなかった」
  • p.109 X委員会。イーロン?
  • p.113 「裁判中に知り合ったノルウェー人弁護士と結婚」w
  • p.133 真珠湾との類似点
  • p.140 サンダーボール作戦、ベンツ登場の場面が映画的
  • p.146 オペラ作戦、イスラエルへの非難決議。このころもか
  • p.148 ユダヤ教を信仰する者は皆ユダヤ人 『私家版・ユダヤ文化論』で知ったな
  • p.152 うっかりとこのモーセ作戦について、記者達に話してしまった
  • p.168 レバノン侵攻の決定がむちゃくちゃ。やばい国
  • p.171 BBCニュースによって初めてこの虐殺について知った
  • p.177 「20万枚にも及ぶミラージュ戦闘機の設計図」!
  • p.181 MICE = Money, Ideology, Coercion, Ego
  • p.185 イスラエルでは10人に一人が兵器産業に関わっており
  • p.192 ニールの愚行
  • p.196 サンデー・タイムズの裏取りがすごい
  • p.197 ハラハー
  • p.203 アブー・ジハードの筆跡から「精確さと分析能力を持ち合わせた極めて知的な人物」ってそこまでわかるの?!
  • p.233 HUGINT
  • p.242 戦略 >> 戦術
  • p.243 「大量破壊兵器が見つからなかったのはあくまでも結果論でしかない」という思想

行人

2023/9/10 - 10/9 で読了。坂本龍一さんが愛読していたというのでミーハー買いした。

凄かった、長かった、面白かった。これで税込649円なんてお得すぎる!
漱石の作品を読むのは『草枕』以来、でGREEのレビューによると 2004/6/22 に読了してた。19年前!!)

心理描写の細かさというか執拗さが凄い。ほぼ一言動ごとに推量や考察が入るほどのコマ送りぶり。
『野火』読んだ時も感じたが、昔って技術もメディアもそんなに発達してないし人権意識も低いし、人々も大雑把に生きてたんでしょ?みたいについ現代の我々は思ってしまうが、そんなのがとんだ偏見であることを教えてくれる作品であった。満ち満ちた痺れるほどの「女々しさ」。
俺らの大好きな『山月記』ですら1942年らしい。その30年前にこれが朝日新聞に連載されていたとは。

形式的な主人公は二郎だが、実質的な主人公は兄の一郎。(→三沢は第三の男ということ? 重は四、直は七??)
はじめ「気難しい兄」程度だった一郎の狂気は終盤加速していき、「哲学病に取り憑かれた」というか、庶民風に言うと「頭良すぎておかしくなった人」みたいになってしまう。
若気の至りって歳でもないのに……でも、私には一郎の突き詰めて考えてしまう性分は、わかる気はする(私には一郎のような能力も地位もないが)。
ある種の人には、そんなことを考えてしまう時期があるのかもしれない。生活に喫緊の苦労や危険がないと。

気になった表現たち

ありすぎるので「p.」は省く。

  • 14 子供が出切るのが怖い
  • 30 (結婚が決まるのが)あんまりお手軽過ぎて
  • 59 酒の力で一つ圧倒して遣ろう
  • 72 ツンデレ三沢w
  • 83 三分の一煙(けむ)
  • 86 知人の家に嫁(よめ)らした
  • 94 黒人(くろうと)
  • 100 水滸伝
  • 105 「佐野は瞞されても然るべき」ひどいw
  • 109 狐鼠々々
  • 135 「人間もこの通りだ」w
  • 147 スピリットも攫まない女
  • 170 車夫 大正の格差社会
  • 178 ギヤマン細工
  • 209 女々しい兄
  • 223 「どうでも能くってよ」
  • 229 綾成(あや)す
  • 233 堂摺(どうする)連!「娘義太夫」の追っかけ。
  • 241 囀る女 Twitter!
  • 247 頭を掻く真似 100年以上前からあった仕草か。
  • 248 「今聞かせられている」w
  • 258 「実際の所それが世の中」やるせない現実。
  • 267 「男は情慾を満足させるまでは、女よりも烈しい愛を相手に捧げるが、」
  • 272 銅版(画) 略すのね
  • 273 上滑りの御上手もの
  • 278 「こおろぎ」の漢字が印字されてない?
  • 292 己は一時の勝利者にすらなれない
  • 325 塵労(じんろう)
  • 328 手爪先の尋常な女
  • 335 親の手で植付けられた鉢植
  • 339 ミステリアス嫂。素敵だが、女性の安易な神格化ではないか?
  • 345 「のんこう」って何よ!
  • 348 「どうも驚くね世の中の早く変るには」って1912年のおじさんが言ってる。
  • 348 遠慮が無沙汰
  • 353 なまめいた匂い(妹の部屋)
  • 356 恐ろしいX(エッキス)
  • 359 ぼんやりしさ加減
  • 363 夷然(いぜん)として
  • 368 過去の詩を投げ懸け
  • 372 王室の式微
  • 375 「舞楽」耽美性すごい。
  • 378 「三人の男」まるで私小説のように実体験を利用しまくってる(と解説にある)。
  • 395 contradiction in terms
  • 399 自烈たい部に属する人間の一人
  • 402 珊瑚樹
  • 406 屈強の道具
  • 408 二六時中何をしても、其処に安住する事が出来ない
  • 410 恐ろしいという言葉を使っても差支ないという意味
  • 413 敬虔の念!
  • 415 第一原因
  • 417 実際兄さんの好いていたのは、修善寺という名前
  • 427 人生の上に於てどんな意義になるでしょうか
  • 443 すべからく〜せざるべからず 二重否定版もあるのか。
  • 444 兎角の是非を挟(さしは)さむだけの資格
  • 446 調査する人 vs 実地の人。わかるぞ兄さん!
  • 447 「和して納まるべき特性をどこか相互に分担して前へ進める」妙言。
  • 449 「男二人の事ですから、煮炊は無論出来ません」そういう時代か
  • 450 トマトー
  • 452 実は的確に読解していたHさん
  • 458 意解識想
  • 462 「スポイル」もう使われてたのか。

誤記?

  • 487 先方を研究 ←戦法では? 意味通らなくもないが

街とその不確かな壁

2023/8/15 - 10/1 で読了。

村上春樹の新刊を読む」という体験を生まれて初めてできたかも?
大学生のころまでは図書館で借りられる著作はすべて読んでたが、就職後はそこまで熱心に読まなくなってしまい、『1Q84』も『騎士団長~』も未読であった。
今回、貴重な読書仲間と『黄色い家』を交換して借りられたので読めた。

面白かった。幻想的な、超自然的な(マジックリアリズムに対するメタ言及もあり)、枯れたおっさんの理想的ライフスタイル的なおなじみの春樹ワールド。気持ちよくすいすい読める。
ただ、長い、分厚い。そして物語がどこに向かってるかわからず、「十代のころに自分にとって完璧な恋人がいた」という美しすぎる経験にも共感できないので(まあそれを「純粋さ」とかの比喩として無理やり別の何かに読み替えることは可能としても)、「この本を読まなくてはならない。なにがあろうと」ていう感覚にはなかなかなれず、読むのに時間がかかってしまった。
しかし、前半は淡々としてるけど、子易さんが現れたぐらいから俄かに物語の怪しさが増し、面白くなってくる。

『世界の終わりと~』風の並行世界ものは筆者のなんというか持ちネタになったんかな?と思って読んでたら、「あとがき」で衝撃の舞台裏が明かされる。
1980年から2020年。すごい期間……まるでライフワーク、長年の「宿題」がついにできたという感じだろうか。
春樹さんは私の31歳上。

気に入った(なった)表現たち

  • p.196 図書館勤務、憧れますよね
  • p.320 延々と継続していく長い鎖の輪っかのひとつに過ぎない
  • p.358 資格。『黄色い家』とは違う種類の
  • p.367 「布団の中に入るとすぐに眠りに就いてしまう人間」共感w
  • p.483 「孤独が好きな人なんていないよ」