2023/5/27 購入、2024/4/23 - 5/17 で読了。
約80年前にすでに、現代人でも敵わないこれほどの知性が存在したことに感銘を受けた。「ナショナリズム」と「母国愛」の違い、パレスチナ問題など、現代でもその正しさと価値を失っていない OOPARTS のような評論集である。やはり私の心の師匠の一人であり、Great Brother であると確信した。早逝がたいへん惜しまれる。
良かったところ
あなたと原爆 (1945)
- 15 地球の表面が三つの大きな帝国に分割されつつあり
- 17 冷戦 の初出!
科学とは何か? (1945)
- 20 J・スチュワート・クックの「人文偏重・科学軽視」論。当時からこういうのあったの! オーウェルの先見性がすごいのか人類が進歩してないのか。
- 23 ドイツ人(狭義の)科学者たちが人種科学 [優生思想] を鵜吞みにした
- 25 そのような人が起こす政治的反応は、いくばくかの歴史的記憶や非常に健全な美意識を持っている字の読めない農民の反応より、おそらくは知的に劣るものとなるだろう
- 25 科学的教育が意味すべきものは「方法の獲得」。なんて正しい。
- 27 狂人たちの世界の真只中にもひと握りの正気の人たちがいるのである
復讐の味は苦い (1945)
- 32 それができなかった過去に、できるようになったらこうしたいと計画した通りの行動をしているだけで、大して楽しんではいないのだ
- 36 戦争の実態を見たベルギー人ジャーナリストの改心。
スポーツ精神 (1945)
- 38 スポーツというのは憎悪の原因ww
- 41 こういったばかばかしい競争で怒りの炎を燃やして、走ったり跳ねたりボールを蹴ることが国家の美徳の証明であると、短期間であっても信じさせてしまう国家の態度こそが問題なのだ
- 43 スポーツ崇拝は十九世紀の終わりになるまで起こらなかった
- 43 ナショナリズム、つまり自分自身をより巨大な権力の単位と同一化して全てを競争的な名声を通して見るという狂気じみた現代的な慣習…明快すぎる定義
- 44 ユダヤ人対アラブ人
絞首刑 (1931)
- 53 心が一つ、世界が一つ、なくなる。
象を撃つ (1936)
- 60 キンマ 檳榔みたいなものか?→合ってた
- 62 英国のインド統治(ラージュ)
- 63 must = さかり
- 64 事件の現場に近づいて行けば行くほど、情報が曖昧になっていく
- 75 どんなインド人苦力より象一頭の方が価値が高い 悲しい話。
マラケシュ (1939)
- 79 人口過密なユダヤ人居住地区。貴重な記録
- 81 ユダヤ人差別、魔女裁判、延々変わらぬ人間の愚かさ。「そんな魔法が本当に使えたなら、まともな食事を摂るのに苦労したりはしなかったはずなのだが」
- 82 従事している仕事が重要になればなるほど、それだけ目につかなくなるものだ
- 83 この地に住む九割の人々にとって人生の現実とは、蝕まれた土地から僅かの食料をなんとか絞り出すための終わることのない骨折りを意味する
- 85 彼女は老婆としての役割を受け入れており、それは言わば荷物運び用の動物の役割だ
- 88 「あとどれくらいこの人たちを騙し続けることができるのだろう?」
右であれ左であれ私の国 (1940)
- 91 マルヌ会戦、タイタニック
- 93 何年も自分のもとで働いてきた馬車の馬を取り上げられた御者 戦勝国でさえこういうのあったのか。
- 94 当時のエリート少年たちに瀰漫してた「視野の狭い平和主義」。めっちゃ重要な記録では?
- 96 We want eight and we won't wait!
- 101 もったいぶった反動主義者の骨組みからでも社会主義者は作れる
スペイン内戦回顧 (1942)
- 105 マヌエル・ゴンサレス、ペドロ・アギラル、(…)といった美しく鳴り響く名前たち
- 108 戦争とはただただ死体と便器
- 110 不労所得資本主義の時代
- 113 一九三七年に日本軍が南京で行った残虐行為についての恐ろしい話をどんなものでもすべて信じ込むような人々が、一九四二年の香港での残虐行為について同じような話を信じない
- 125 この類のこと(=粗悪なプロパガンダ)に私は慄然とする。客観的事実という概念自体が世界から消え失せていっているような気がするからだ
- 144 労働者階級の社会主義者に向かって「物質主義」云々とお説教するこういった政治家や聖職者、文学者等々の連中の忌まわしき横柄さ!
ナショナリズム覚え書き (1945)
- 154 ナショナリズムとは自己欺瞞によって強化された権力欲だ
- 156 ドラッカー、独ソ不可侵条約を予想。ご長寿!
- 156 政治評論家や軍事評論家は星占い師と一緒w
- 164 BBCの発音や開いたA音
- 164 ナショナリストの思考にはしばしば、共感呪術を信じているかのような印象さえ感じられる
- 166 ナショナリストにおいて変わらないままなのは、彼自身の心の状態のほうであり、一方、感情を向ける対象は変わりうるし、それが実在しない想像上のものだということだってありうる
- 168 民間人への爆撃 現代のような文!
- 170 一九三三年のウクライナ飢饉
- 171 ナショナリストはみな、過去は改変可能だという信念に取りつかれている ここも現代のよう。
- 173 彼が求めるものとは、自分が属す集団が他の集団より勝っていると感じることであり
- 177 ジョイス登場! この時代の人か。
- 179 ソラトピー ぐぐってもまともな定義が出てこないが、サファリハットみたいなものらしい
- 180 黒人の性的能力の高さは、口にはされないが神話のように広く信じられている
- 187 「より頑固な種類のナショナリストには、数年の時間が過ぎたあとでもまだ読むに値すると思えるような本は決して書けない、という事実にはある種の消臭効果がある」w
- 193 現代の世界ではインテリと呼ばれるような人間は誰であろうが、政治を気にかけないという意味で、政治から距離を置いて関わらないことは許されない
イギリスにおける反ユダヤ主義 (1945)
- 197 「あの路線には神に選ばれし民が多すぎますよ」…「ベビーカー様」みたいな表現か
- 202 反ユダヤ主義の特徴の一つは、おそらくは事実ではありえないような話を信じてしまう能力を持っていることである
現代の陰謀論者にもそのまま通じる。 - 202 1942年ロンドン、100人以上が地下鉄駅で圧死→流言飛語
- 210 オルダス・ハクスリー登場。なんとオーウェルのフランス語教師!
- 213 イギリスが現下の戦争で大いに弱体化した場合には、まず確実に(ナショナリズムは)生き返ることだろう
なんと正しい。 - 214 反ユダヤ主義は根底において理屈に基づいたものではないため、議論によって論破することは不可能である
- 216 シオニストのユダヤ人は、私に言わせれば単に反ユダヤ主義を裏返しにしたものに思える
やはりそうか、昔から。貴重な指摘。 - 216 「なぜ私は反ユダヤ主義に惹かれてしまうのか?」を問うべき。
おいしい一杯の紅茶 (1946)
ここから一転して軽い話題になる。
- 224 「紅茶の風味を砂糖でぶち壊しにするような人間を本当の紅茶愛好家と果たして呼べるものだろうか。それでは胡椒や塩を入れても同じではないか」ww
本対タバコ (1946)
- 228 この時点でオーウェルの手元にある本は442冊。私と一緒ぐらいか!?
- 230 約900冊で約165ポンド。当時の本安っ!
他の娯楽と比べると相対的に・圧倒的に安い、のは現代も同じか。「娯楽」じゃないしな。
なぜ書くか? (1946)
- 236 おそらく五歳とか六歳の頃から、大きくなったら自分は物書きになるのだろうとわかっていた。すごい
- 242 人類の大部分の者たちは(…)だいたい三十歳を超えると個人的野望を捨て去り(…)概して他の者のために生きていく
- 242 美的熱意(…)ことばとその正しい並びの美しさを知覚すること。
まさにこれが私も動かしている。 - 243 芸術は政治と無関係であるべきだという意見もそれじたい政治的態度であろう。
2020年代になっても湧いてくる言いがかり、に対する答えがすでにあった。 - 248 自分の政治的姿勢について意識するようになればなるほど、美的、知的な完全性を犠牲にすることなく政治的に行動できるようになる
- 249 自分が生きていて元気なうちは散文の文体に強い関心を持ち続けるだろうし、この地球上で起こることを愛し、具体的な物質にも情報の切れ端にも喜びを見出すだろう。私という人間のそういう側面を押し殺そうとしても無駄である。私のするべきことは、自分の中に根深く存在する好き嫌いを、この時代が我々すべての者に強いる本質的に公的で非個人的な活動との間で和解させることだ。
泣けてきた。私の一部が書いた文のように感じられた。 - 251 すべての本は失敗作なのだが いい諦観。
ある書評家の告白 (1946)
- 256 『岐路に立つパレスチナ』今までいくつ岐路があったのだろう。
- 256 おそらく間違えて入れられた小説『横になっている方がまし』が気になる
- 257 書評は求められた長さぴったりに、残り時間三分というタイミングで完成する。すごいプロ!
- 260 「私はこの本にはどんな点においても興味を持てないし、金が払われなかったなら何か書きたいとも思わないだろう」w
- 261 「映画評論家に比べれば書評家はまだましである」w
ガンジーについて (1949)
- 268 生きているだけで世界を豊かにすることのできる興味深く並はずれた人間
- 269 やむを得ず牛乳を摂ることを「背信行為だと考えていたようだ」
解説
- 284 トランプ当選で『一九八四年』がベストセラーになるアメリカもすごい。
- 287 オーウェルの評論に見られる特徴の一つは「常に自省し自己批判を怠らないこと」。
- 290 「スペイン内戦」の解説。世界史に疎いのでありがたい。
- 291 オーウェル、スペイン内戦で「銃弾が喉を貫通」して死にかけていた! 頸動脈と1mm差で。
その時死んでたらこの本も世に出てないと思うとすごすぎる。
年譜
- 296 幼少期のエリックは神経質で内向的。フロンキーという名の架空の友だちを作りあげる。
- 302 43歳で再婚活!
Poking at 重箱の隅
- 163 この「すべからく」は「~義務」にかかってると読めなくもないが…
- 252, 260, 276 これらの「すべからく」はことごとく誤用っぽい