武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

2017/7/24、出張帰りの地下鉄で読了。

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

 

西田藍さんが紹介なさっていたので読んでみた。

ケン・リュウっていうと世代的に「スト2の主人公っぽい名前やな」とかつい思ってしまうが、いま世界的に大注目の実力派若手(私の3~4学年上)作家らしい。

読んでみて「これはたしかに実力派やわ」と思った。筆者は中国で生まれ、11歳でパロアルトに移住→ハーヴァード大卒→MS入社→独立→弁護士…という無敵すぎる経歴の持ち主で、そのプログラマや弁護士の経験も作品に活かされてる。

そういった「プロっぽさ」や技巧的なところが面白いのはもちろんなのだが、それらより何よりも、常に政治的・社会的「弱者」の視点を持って描かれているのがこの作家の素晴らしいところだと思う。村上春樹さんの言う「卵」側の立場というか。

収められた7篇はそれぞれテイストが違っており、表題作「紙の動物園」のように幻想的・すこしふしぎなものから、かなりSFな「心智五行」、中台の過酷な政治的実相を絡めた「文字占い師」まで様々。帯に又吉さんが書いてるように、読んでて「ずっと幸福」でいらるような作品群では実はない。人間のどうしようもないおぞましさも出てくる。

感想をひとことで言うと:拷問、ダメ。ゼッタイ。

黄色い本

貴重な3連休の中日(なかび)。うだる暑さの中、西日差す寝室で寝っ転がりながら読了。

おおかみこどもの雨と雪*1」を広島で観てた時、ヒロイン花の部屋の場面で、彼女が「『黄色い本』がある!」って背景に見つけて興奮してて知ったのだった。

やっと読めた。

黄色い本 (KCデラックス アフタヌーン)

黄色い本 (KCデラックス アフタヌーン)

 

1996~2001年に発表された4作の短編集。それぞれ画風・作風が違う。

全体を通して気持ちいいほどに説明しないスタイルで、誰の(発言|思考|空想|事実)なのかぱっと見わからないコマもある。

社内恋愛がテーマの「マヨネーズ」微妙にエロティックで良かったけど、結末が納得いかん!w

各話の扉にある謎の「かえる4コマ」も渋くて素敵でした。

*1:もう5年前なの?!!やばすぎるな

猫も、オンダケ

やっと読めた。福岡の若干しょぼくれた新居にて西日を浴びながら。ちょっと感無量。

猫も、オンダケ (角川コミックス)

猫も、オンダケ (角川コミックス)

 

糸井さんがTwitterで宣伝してたの見て知って、しばらく品切れでなかなか手に入らなかった。

1年ほどして落ち着いてから買ったけど、広島勤務が終わる頃でバタバタ。

これぐらい軽い本なら読めるやろ、って転勤先の天神のウィークリーマンションにも持ってったけど、結局これすら読める余裕がなかった。

 

内容は1970年代、和田ラヂヲ先生の故郷である愛媛が舞台。和田家のパロディと思われる「恩田家」の4人を中心に、特に大きな事件も起きない日常が淡々と描かれる。

4コマ形式だが特にオチらしきものがない回もある。しかし「くくっ」と笑ってしまう話も多いし、たしかにこういう家庭は日本のそこかしこにあった/今もあるのだろう、と思わせる。俺もサツマイモの天ぷらが懐かしくなる。

 

きょうの猫村さん』を読んだ日を思い出した。

三鷹の図書館で借りて読んだのだった。手元の読書メモによると2009年(!)。

当時既に「学生のころ流行った猫マンガ」ぐらいの認識でなんとなく読んでみたのだが、いやーこれは巧いな~、面白いな~と思った。

教授の「猫村さんは働き者なんだね しかし… 時々休んでぼんやりしなさい」という台詞に、ああ俺はそんな日年に1日もないな…と情けなくなった記憶がある。

それから7年である、恐ろしいことに。俺は相変わらずバタバタしてる。いろんな人が結婚したり出産したり離婚したり転職したり諸々やってる間に、相変わらず一人もしくは二人で、しょぼくれた日常を営んでいる。

ラーメン食べに行こう。新居の近くにもわりとうまい店があるらしい。

吾妻ひでお ベストワークス 悶々亭奇譚

ほぼ巻末の「スペシャル鼎談」(吾妻先生と西田藍さん、大森望さん)目当てで買ったけど、漫画も面白かった!

半分ほど出張の合間に読み、残りをさっき読了。

『プランコ君』の「ファンタジア」は『さまよえる成年のための吾妻ひでお』で既読だったが、他はたぶん初めて。

 すべての話が狂ってる。SFチックなのもあり、ひたすらどうしようもない下ネタが続くのもあり。

『墨東奇談』が4ページカラーで、幻想的でかっこいいと思った。(ある意味どれも幻想的ですが)

 

まあ言うたらむちゃくちゃな、エログロ・ドタバタな話ばっかりなんやけど、読んでるとちょっと自由な気分になれた気がする。日常の雑事も世の中の面倒ごとも、もう別にどうでもええや~んていう。

 

ちなみに西田さんは自前の白いセーラー服でご出演されています。

広島カープ誕生物語

今年の夏休み、小中高以来の友人に「広島をもうすぐ離れることになった」と言ったら、土曜にはるばる広島まで来てくれた。

友人が仕事用の参考書籍を買うというので紙屋町の紀伊國屋に連れていったら、カープ本の棚に…あった!!この伝説の漫画が。丸善は在庫4冊とも「取り置き」状態で置いてなかったのに!

即買い、倉式珈琲で半分ほど読み、友人と別れて帰ってから即読み。
涙と鼻水が止まらなかった。こんなに泣いたのは去年の『イミテーション・ゲーム』以来や。

中沢啓治著作集 1 広島カープ誕生物語

中沢啓治著作集 1 広島カープ誕生物語

 

広島の人がなんでそこまでカープを好きなのかがよくわかった。

この作品にもっと早く出会いたかった。

他県から広島入りする人向けの教科書に指定すべきやな。『はだしのゲン』と合わせて。

 

「熱狂的なファンの極端な行動」ネタとして引用されてるのは時々見てはいた。そんなツイートを見て笑ってもいたが…

ここまで自分が感動するとは。

広島在住という地元びいきもあるかもとはいえ、この作品が圧倒的な熱量、そして普遍的な価値を持っているということだろう。

ちなみに私、カープファンどころか野球ファンですらありません。もっと言うとスポーツ自体にほとんど興味ないのだが。

 

野球愛、郷土愛、親子愛、男女間の愛、動物への愛、そして人類愛。

あらゆる種類の愛情が全編通して満ち溢れている、凄まじい・素晴らしい作品でした。

原爆はこの世にない方が良かったに決まってるが、中沢啓治先生が地球にいてくれて良かった。

近藤ようこ初期作品集 1 仮想恋愛

1週間前。丸善に『広島カープ誕生物語』が置いてなく、かわりに別の赤い本を買って帰った。

さっき読みました。

近藤ようこ初期作品集 1 仮想恋愛

近藤ようこ初期作品集 1 仮想恋愛

 

近藤ようこ先生24歳の時の短編集。

言葉をできるだけ削ぎ落としたような、静かで詩的なお話たちでした。かっこいい。

全体的に「ガロ」っぽく、「ガロで読みました」みたいに言われることも多いそうなのだが、ガロ(原稿料なし!)に描いたことはなかったらしい。(でもこの本は青林工藝舎から出てる)

性的にブイブイいわしてるわけではないが肉体的・社会的には間違いなく女、みたいな女性たちが主人公。1982年3月のあとがき(2015年6月のあとがきも併録されてます)に“去勢された女”というテーマが語られており、なるほどなあと思った。

「子宮感覚」的な言葉は男の妄想、しかし自分の中の女性性に回帰=同化しないと「全き女性」になれない、といったような観念が作者にはあって、それを読んで妙に安心した。私自身いわゆるマッチョではない、「全き男性」ではまったくない(草食男子?w)、でも「ソープへ行」かないと「小僧ども」は「大人」になれないのか*1・・みたいな感覚が昔からあったので。

・・ああ、でも「文学」って昔からそういうものかも。

 

個別の感想

ホメオスタシス」「天王寺、参る」ちょいホラー。

「逆髪」これもちょっとホラー。

「籠りの冬」静かでいい。インターネット前、戦後、という時代も感じる。

「とりこの鳥子」意外性あって面白い。

「夏休み」思春期っぽくていい。

*1:今なら「んなわきゃーない」と言える

サラリーマン山崎シゲル 第3巻

一気読了。相変わらずクッソ面白うございました。 

ギャグがおもろいのはもちろんのこと、今回は特に絵の巧さに感心しました。

例えば24、25ページの動く太鼓&部長。こんな「止まってるのに動いてるように見える絵」、お手本あっても描ける気がしない。

34、35ページ「部長を投げる」も描画量こそ少ないけど、線一本でもミスったら…と思うと手が震えそう。絵ぇめっちゃ上手いですねほんま。

この3巻には特別編?「中学生山崎シゲル」もあるので、山崎シゲルファンにはオススメ!