武書房

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ありきたりの狂気の物語

2024/2/8 - 3/14、広電内でチマチマ読了。
なかなか面白かった。

平成11(1999)年8月1日発行、裏表紙にブックオフの400円シールが貼られてる。いつどこで買ったかは覚えてない。2000年前後に流行ってたと思うので学生時代か就職後か? いずれにせよ20年ほど前ではないか。
買ったものの、いかにもパンクアイコン的というか(Trainspotting も流行ってたな)不良っぽいものに憧れる若者が好きそう…という印象で特に読む必要性を感じず、ずっと積んでしまってた。漱石も実はめっちゃロックやんけ!ということに25歳で気付いてしまったというのもあったか。

それがこのたびついに読んでみて。攻撃的な中島らもというか、アル中(6缶入りビールが頻出アイテムw)の露悪的なおっさん、という感じでわりと予想通りであった。顧みない対象としての妻子を持ってるという意味においても正しく無頼派というか。90年代日本で流行った「悪趣味系」との相性もよかったと思われる。

いかにもパンクロックな作風で、ディオゲネス的「下から目線」(それが内発的なものか人工的な芸風か、その両方かもしれない)は嫌いではないと思った。私もそうなので。
ただ女性蔑視がきついので現代では受け入れられがたいとも思う。平気で飲酒運転するし。

「ありきたりの狂気」に込められた主張としては、現代のアメリカはどいつもこいつも狂ってる、自分も含めたアル中もギャンブラーも真面目にあくせく働いてる奴らも。というぐらいの意味か。

読んでためになる本ではないし、心が温まるとか誰かと熱く語りたくなるような本でもない。いま読む「必要性」はまったくないと言える。
ただ時々「おお、さすが詩人」と思わせるような光る言葉が出てくることもある。泥に咲く花のような。
あと「こんなどうしようもない奴でも堂々と生きてるんやしな」という、ある種の救済のようなものは感じられるかもしれない。ブコウスキーと友達になれるかはわからんけどw

例によって覚え書き

  • 16 動物たちは「どんなときでも自分自身なの」
  • 22 「みんな自分自身にうんざりして、死を願ってる」は人類の常態か?
  • 33 いい展開
  • 41 ピンハネを糾弾
  • 111 「作家のほうがおまえを選ぶんだ。おまえが選ぶんじゃない」
  • 118 女性蔑視がすごい。ネタか?
  • 133 禅の結婚式の「ふざけた味付け」w
  • 134 FBI捜査官w
  • 147 「悪かったな、一瞬忘れてたよ」w
  • 166 時間を、人を邪魔する以外にはつかいようがないという、何十億もの人間
  • 175 纏足二つぶんぐらいまで迫ってきた
  • 178 古臭くてあくびが出るほど退屈な言葉「死の願望」
  • 181 「詩人というものは不平不満を注意深くいってるだけ」w
  • 232 「一人暮らしで台所がいつもきれいでいたら、九人のうち八人は浅ましい性根の男である」w
  • 258 クズどものせめぎ合い、すげー面白い
  • 281 「それともピュリッツァー賞のほう?」w
  • 290 どんなラビになるかは知れている
  • 295 「おれは鳥が水浴びできるような場所があればいいよ」美しい表明。
  • 297 「一センチ進むのに、どれだけ多くの人間が死ななきゃいけないんだ?」ここの会話いい。
  • 300 充実した48歳! 羨ましい。
  • 327 「えっ一九七五年?…なんだ一九八四年はもうすぐじゃないか」
  • 357 (ボビーのちょっとした癖、)彼はそうしなければならない
  • 360 プーロンの態度w
  • 362 ドクター・ブレイジンガムのクズ描写w
  • 377 なんとかやれそう
  • 382 仕事で疲れ切ってるところに自作の詩を読めと言ってくる女性w
  • 389 「ソースパン」という架空アイテム
  • 396 ノーマン・メイラーを読む人たちや、野球を見にいく人たち…が怖い
  • 401 悲惨な事故現場を撮影する人々。スマフォなんてなかった昔からそうか
  • 407 おかしな奴=ペストが「かならず私に目をつける」w 共感。
  • 411 マックリントックw
  • 417 自由な魂はありふれているわけではないが、会えばわかるものだ…わかる
  • 430 「糞いまいましいグッゲンハイム助成金の申込み用紙を手に入れたかったらどこにいけばいいかを知ってる連中」
  • 433 「バタ屋のサム」
    「ミニスカートの女の値打ちは八ドルそこそこだ」w
  • 434 「(金持ちは)何にも関心がなく、ただ金だけを持っている。あわれな動物ではないか」透徹してるようでもあるが、ただの僻みでもあるな
  • 439 「さよう」ww
  • 441 「孤独癖が強くて一人で飲むのが好きな、年とった飲んだくれ」俺か!
  • 443 若者言葉への苛立ちがおもろいw
  • 446 (老人は若者に)「嫉妬してるのだ」
  • 451 「こいつらがこんなにハンパで生きていけるなら、私だって生きていけると思える」w
  • 452 彼女は目を明けていた ← 誤変換?
  • 463 最後の短編「毛布」は趣向違って良い。幻想的で。
  • 464~ あとがき
  • 467 (日本語と)英語とのあいだに、無傷でいったりきたりできる通路などない
  • 471 (小説とは)「こんなんでいいのである」!

訴訟王エジソンの標的

2019/6/22 購入、2024/1/26 - 2/18 で読了。おもに広電内で。
500ページ以上あるのにほぼ全ページが面白いという驚異の書。映画的名場面、どんでん返しがありすぎる。

なんで買ったのかは覚えてない。丸善のハヤカワ棚でなんとなく惹かれたから?
しかし訳者あとがきで著者は『イミテーション・ゲーム』の脚本家であったと知り、深く納得した。そら面白いわけやで。

原題は THE LAST DAYS OF NIGHT。それでは伝わらんであろうということで「発明王」をもじった「訴訟王」にしたものと思われる。たしかに『夜の最後の日々』では何の話かわからんか。
実際、対ウェスティングハウスだけでも300件超も訴訟を起こしてたらしいので、訴訟王というのも誇張ではない、どころか歴然とした史実であった。エジソンは「えらい人」そんなの常識、と素朴に思ってた私にとっては驚きだった。そこまでアクが強い、香具師っぽさも持った人物であったとは。
そして発明する仕組みを作った、いわば「メタ発明」もした人であったことも知った。

史実を題材にしており、登場人物はほぼ全員が実在した人物である。
しかしここまで劇的な展開ってあるのか…事実は小説より奇なりとは言うが?!と思ったらやはり編集、脚色したものだった。なので厳密な意味でのノンフィクションではない。
そのネタバラシというか解説は巻末の著者注で誠実に明かされる。

先日知った↓ファラデーの恩師デイヴィーも出てきて(p.56)嬉しくなった。 takeshobo.hatenablog.com

名言たち

各章(72章もある!)の冒頭に科学のいわゆる偉人たちの「名言」が引用されており、これらもいちいち面白い。
(以下、行頭の数字はページ数)

  • 11 スティーブがテクノロジーに疎いのがわからないのか? 彼は売るのが恐ろしくうまいだけだ……。エンジニアリングについて何も知らないし、言うことと考えることの九十九パーセントはまちがっている。――ビル・ゲイツ
    言いすぎww
  • 55 わたしは失敗したのではない。うまくいかない方法を一万通り見つけただけだ。――トーマス・エジソン
  • 112 満足しきった者がいたら、それが失敗者だ。――トーマス・エジソン
  • 191 ひとりになれ――それが発明の極意だ。ひとりのとき、アイディアは生まれる。――ニコラ・テスラ
  • 233 何をすべきでないかを判断するのは、何をすべきかを判断するのに劣らず重要だ。――スティーブ・ジョブズ
    これ有名なやつやね。
  • 255 イノベーションが生まれるのは、廊下で立ち話をしたり、夜の十時半に新しいアイディアについて電話で話し合ったりする人々がいるからだ。(後略)――スティーブ・ジョブズ
  • 260 自分の軍隊を持てないようでは金持ちとは言えない。――マルクスクラッスス
  • 357 革新をおこなうと、まちがえることもある。いちばんいいのは、そのまちがいをすぐに認めて別の革新に乗り出すことだ。――スティーブ・ジョブズ
    エジソンと同じこと言ってる。
  • 371 まずゲームのルールを学びなさい。そのうえで、だれよりも上手にゲームをしなさい。――アルベルト・アインシュタイン
  • 388 科学の核心は、一見相反するふたつの姿勢のバランスを取るところにある。(後略)――カール・セーガン
  • 392 わたしたちが経験しうる最も美しいものは神秘である……この感情がわからない者、立ち止まって不思議に思ったり畏敬の念に打たれたりしない者は、もはや死んでいるも同然だ。――アルベルト・アインシュタイン
  • 403 わたしのモットーのひとつ、それは集中と単純さだ。(後略)――スティーブ・ジョブズ
  • 492 すべての可能性が尽きたときには、こう思うがいい――まだいける、と。――トーマス・エジソン
  • 423 人は先を見通して点をつなげることはできない。後ろを振り返ってつなげるだけだ。だから、将来その点がなんらかの形でつながることを、人は信じるしかない。(後略)――スティーブ・ジョブズ
  • 521 わたしのビジネスの手本はビートルズだ。(後略)――スティーブ・ジョブズ

それにしても本家テスラの愛されっぷりよ。セルビア出身で非常に長身やったそうな。

覚え書き

うまみがありすぎる小説であった。読書中のメモをダーッと挙げとこう:

  • 17 物語化が心を守る
  • 21 「どんな人間がそんなことをできるっていうんですか」「金持ちさ」
  • 52 「糞こそトーマス・エジソンが発明した物だ」w
  • 57 「穏やかで揺るぎない光を作ることなどできるわけがない」と思われていた
  • 62 技術革新を抑圧するのは悪
  • 64 不器用な嘘つきは正直者とあまり変わらない
  • 72 「これがトーマスのやり方です。“正しい答えは何か”ではありません。“まちがってない答えが見つかるまで全部にあたれ”です」
  • 76 とてもゆっくり負けることは、勝つこととほぼ同じだ
  • 92 電気エネルギーがどこから来るのかは“だれも知らない”
  • 101 パンのどちら側にバターがついているのか
  • 103 テスラ「わたしが摂取できるのは、体積の合計が三の倍数になる食べ物だけです」www
  • 107 「EGEの研究所は、発明を育てるところではありません。退屈を育てるところです」
  • 108 最高の復讐は成功
  • 110 金に頓着しない人間にはふた通りある
  • 112 1836年に世界初の特許庁が置かれた
  • 120 そうではなく、まったく仕事をしていなかった点が評価されていた
  • 125 テスラの食事は「水と塩味のクラッカーのみ」!
  • 126 ウェスティングハウスアメリカで最初に「週休1日」を導入
  • 139 「おまえの名声を愛する女を愛してはだめだ。無名の男として愛してくれる女がいい」
  • 139 「父から恋愛指南を受けるのは、ロックフェラー二世から金のやり繰りを教わるようなものだ」ww
  • 186 人間ポールとテスラの連帯感がエモい
  • 186 「アルコーブ」という構造を知った。
  • 215 「朝のコカインはすでに断っていたが」当時は処方されてたのか。
  • 249 デマンス・プレコス、早発性認知症
  • 256 トロイ戦争のヘレネ
  • 258 この男たちの天賦の才はみずから働くことではなく、みずから作った体制を効率よく働かせることに発揮された
  • 261 アメリカ合衆国には反知性主義の傾向があった
  • 282 「スティーブ・ジョブズパブロ・ピカソの名言に対するあやまった解釈」w
  • 326 ポールの子供時代、ほんとうに必要なものはだれでも持っていたが、ただ欲しいだけのものはだれも持っていなかったものだ
  • 333 ここからの展開が恐ろしく面白い。
  • 341 嘘は正しい挑戦を可能にしただけだ
  • 347 アグネスの洞察、人を見る目。すばらしい!
  • 351 「ニューヨークでは、弁護士の開業にはどんな試験もいらない」すごいな19世紀
  • 352 「最初の子を売らせる」? ちょっと意味がわからない
  • 398 父親は綿摘みに明け暮れたが息子は電力を操れる、そんなアメリカに住みたい
  • 401 問題にぶち当たったとき、ミスター・テスラは真っ先にそれを分類させる
  • 402 電話!!
  • 405 アリス・ブーンとピーター・シェルドンww
  • 406 ベルの妻はメイベル!「佐倉桜子」みたい
  • 408 『結婚なんてつまらない』を歌ったw
  • 413 それが勝利だよ
  • 464 「きっと<サリーおばさんの電気店>あたりにするんでしょうが」ww
  • 493 「会衆」という言葉を学んだ。
  • 494 勝ち目があるのはいつでもヘンリー・ジェインのような人間だ
  • 517 高級レストラン<デルモニコス>にテスラ専用席があった!
  • 526 「フォードは事業計画なんてものを持っている」
  • 545 謝辞も具体的ですごい。

合格対策Microsoft認定AZ-900:Microsoft Azure Fundamentalsテキスト&問題集 第2版

2024/1/31購入、2/6-8で読了、2/10合格。

言い訳および経緯

こういう資格ビジネスというか搾取商法みたいなのに加担する気はなかった。
奴隷が自分を繋ぐ鎖を自分で買ってせっせと磨くような倒錯に見えて、こういうのを「勉強」とは見なしたくなかった。
受験料も高いし、「持ってるほうが恥ずかしい資格」ぐらいに思っていた。神聖IPA帝国民としては。

しかし諸事情により、取ることにした。詳細を書くといろいろアレなので割愛する。

その心理的抵抗、屈辱感を乗り越えるのが最大の難所で、始めてしまえばいわゆる作業ゲー。勉強も受験も(この記事を書くのも)。

本の内容について

これともう1冊SBクリエイティブから出てる本が試験対策として人気みたいだが、こっちのほうが100ページほど少ないのでこっちにした。本は紙で読みたいけど森林資源も守りたいので。

ページ少ないだけに説明はあっさり、でもそれで十分。物足りないところはネットで調べればいい。
それでも多少考えたり復習したりもするので、一通りやるのにざっくり7時間ほどかかったか。

「可用性セット」、障害ドメイン/更新ドメインの説明は正直いくら読んでもピンと来ず。
この記事↓はかなりわかりやすかった(が、本では同じことを説明してるように思えなかった)。
更新ドメインと障害ドメイン。それと可用性セットについてのまとめ | SIOS Tech. Lab

勉強の仕方について

こういう本で一通り要点を理解して、あとはMS公式模試↓で余裕で90%以上取れるようにする、が最速と思う。
試験 AZ-900: Microsoft Azure Fundamentals - Certifications | Microsoft Learn
この模試は(意外にも)よくできてる。
ただ、本番ではちょっと仕組みが違う問題もあった。当てはまる単語を左から右にD&Dするとか、選択肢を表示するためスクロールが必要なやつもあったな。

「意外にも」と書いたのは、公式の Microsoft Learn の教材が膨大かつ茫漠としてて、試験対策には向いてなすぎたから。
初めは本も買いたくなくて公式記事をチマチマ読んでたのだが、どんだけ読んでも理解度が上がってるように思えず、本読んだほうが早いわと気付いた。

受験

2/9に翌日の試験を予約した。会場は東急ハンズ&サロンシネマのすぐ近く、これは便利w
試験センターに早めに入ってお姉さんから説明聞いて、実質20分ほどで完答。念入りに見直しても30分かからず。
当然合格したが、悔しいことに満点でなく936点。理解が薄いとこは間違えてたようだ。

2018年まで受けてたIPA試験よりハードルは何十倍も低い。いつでも・すぐ受けられ、結果もすぐわかる。
なので張り合いはないが、まあこういう楽な試験もゲーム感覚かつちょっと「スキルアップ感」は得られていいのかもねと思った。

試験でたぶん間違えたやつ

  • 「規制コンプライアンス」を評価できるのは Microsoft Defender for Cloud
    Azure Advisor にもセキュリティの勧告機能あるよな…て引きずられてしまった。
  • Application Insights でアプリの応答時間を見られる
    いや使ったことあるのに、「アプリでログを明示的に出してない限り無理、ていう引っ掛けでは?」とか迷走、謎の "Network Watcher" を選んでしまったw

思わぬ副作用

本読んで合格して Azure の概要をある程度知ったことで、今後「○○を△△したいなら、Azure の□□機能を使えばいいですよ」みたいな提案をできる可能性が出てきたかもしれない。
まさか実用性があるとは!

ロウソクの科学

2020/3/15 に購入、2020/1/15-29 で読了。

おそらく60年以上前、父が中学の時に先生から薦められて街の本屋(実家は本屋などない村である)でこれを買って読んで感銘を受けた、という話を聞いてからいつか読まねばと思っていた、歴史的名著をついに。
↓これの約130年前のクリスマス講演の実況本。 takeshobo.hatenablog.com

ただ、やはり実演を見てないとつらいなw
理解の助けになるように図も追加してくださってるけど、白黒のイラストなので今イチ様子がわからん絵もある。当時の時代背景も訳注に補足するなどの工夫もされているのだが。
あと「既知の結論を裏付けるための実験の羅列」という感じもあり、あんまり発見&納得感はないかもw まあ限られた時間内で実演する必要があったのでそれはやむなしか。

講演自体もさることながら、巻末付録の「ファラデー 人と生涯」も感動的。科学(化学)を愛し/に愛された人であったことがよくわかる。

覚え書き

  • p.92 「私は、この実験を皆さんにお見せするのをちっとも恐れていません」現代ならアホ親が抗議しよるかもな。
  • p.96 重さの最小単位「1グレーン!」
  • p.102 「電報を送ってくれました」いまで言うLINEみたいなもんか。
  • p.107 コック(H・H・H)って、図に「'」とかない?
  • p.115 hundred-weight こんな単位もあるのか
  • p.127 窒素の偉さ。
  • p.133 「ぼうこう膜」!
  • p.140 もはや単に「ぼうこう」
  • p.151 ここでも和ロウが登場。開国の数年後やから不思議ではないのか
  • p.165 「悪い空気」w
  • p.170 「私たち自身がロウソクのようなもの」。ここから一気に感動的になる
  • p.199 環境問題に関心を持っていた
  • p.204 Encyclopedia Britannica を読み耽って電気を勉強。熱い
  • p.211 「おそらくフッ素のために健康を害し」デイヴィーも若めに亡くなってる。科学が人類に曇りなき希望を与えてた時代だったのだろう。
  • p.212 幸運なファラデー。敵国の科学者を厚遇するナポレオンもすげえ!
  • p.219 恩師デイヴィーとの確執。なんて「人間ファラデー」っぽい
  • p.230 「私の人生は楽しいものであり、望みうる最上のものだと思っています」まさに。
    そう言える人生にしたい。

口訳 古事記

去年話題になってた本、2024/1/5-14 で読了。大半は実家で1/5,6に読んだ。
ごっさおもろかった。

恥ずかしながら古事記を(日本書紀も)読んだことがなく、これが私の初古事記体験となった。
部分的に知ってる固有名詞はちらほらあるが(from 女神転生)、滋賀出身のくせに伊耶那岐大神が多賀に祀られてる(p.44)ということすら私はろくに知らなかった。勉強になった。
醒井のエピソードは聞いた覚えはあったかな。

しかし日本の神さん(≒天皇ファミリ)、やってること無茶苦茶。気に入らん奴すぐ殺すし近親婚しまくるし美人の噂聞いたらすぐ捕まえに行くし。
まあどこも神話はそんな感じか。歌で会話しがちなのはミュージカル民族って感じで微笑ましい。

それにしても神さんの名前長っ。伊奢沙和気大神之命、宇遅能和紀郎子とか。私は数年前まである特殊な事情により、ニニキネ、オオタタネコナガスネヒコといった神さんらの名前を日常的に聞いてたのである程度耳なじみはあったが。あーそういう漢字やったの、そういう経緯やったのと改めて知った。
媾合という言葉を覚えた。

全員がコテコテの口語でしゃべるので、他の町田康作品と同様、関西弁ネイティヴじゃない人には難読なところが多いかもしれない。「その牛、殺して肉にして食おう思とんちゃんげ」(p.417)など。

そして二千年超の歴史を持つ日本すごい…とは思うけど、地球や宇宙の歴史に比べたらほんま瞬きよりも短い期間でしかないんよな↓。 takeshobo.hatenablog.com

人類が知っていることすべての短い歴史(上)

2023/12/18 - 2024/1/4 で読了。
たしかビル・ゲイツ(いや成毛眞さんか)が推薦してるのを見て2015/1/24に(!)買ったものの、いかにも壮大でしんどそうだったので積んでしまってた。
このたび年末ってことでついに読みはじめてみると…壮大には間違いないが、めちゃくちゃ読みやすくて、面白すぎて正直困った。

体裁としては一般向けの科学読み物、教養書・啓蒙書に分類されるのだろう。懐かしの『ソフィーの世界』の物理化学版を圧倒的情報量でお届け!という趣もある。
しかし
「こういう考え方があるんだ!と新鮮で、気付きが多かったです。今後の人生に活かしていきたいと思います☆」
みたいな生ぬるい水準の話じゃない。もっと根源的な、例えば「実はこの世界は16bitマシンのゲームで、俺はその1キャラだったという事実を思い出した」ぐらいの衝撃、文字通りパラダイムシフトを促す凄い本であった。

地球の歴史が46億年、宇宙が137億年?、1mol が1023個、とか私も知識としては一応知ってはいたはずなのだ。しかしそのとてつもない長さ、大きさ、小ささというのが、実感としてはあまりなかった。「想像を絶する」ので想像すらしてなかったのかもしれない。
もちろん今もそんなもん正確にはわかってない。「宇宙のサイズが肌感覚でわかるようになりました」という話じゃない。

しかしこの本を読んだ今となっては、以前のように肉体を持ついち社会人然として生きるのが難しいような気さえしている。人類が「風の前の塵」なみに脆く不確かな存在であることを再認識してしまったので。なんせこの体にしても、「原子を大聖堂の大きさにまで拡大しても、原子核は蝿くらいの大きさしかない」(p.285)ほど隙間だらけの原子でできてるのだし。

いかに他人や自分が決めた必然性のない・時空限定的なルールを熱心に信奉して生きてきたか、ということに気付かされた。肉体的・時空的制約を持つ自分、人類、文明といったものの「範囲」の捉え直しを迫る本である。「思考の次数が上がる」というのはこういうことを言うのではないか?
ファラデーの時代あたりまでは自然科学も Philosophy と呼ばれていた、その理由を納得できた気もする。

宇宙の途方もなさ、原子の捉えどころのなさにはまさに圧倒される。まだ何もわかってないに等しいのかもしれない、でもここまでわかった人類が凄いとも思う。
「人生は奇跡的な偶然の上に成立してる一時的なゲーム。そう思えばもっと挑戦的に生きられる!」
のような自己啓発書的「学び」を得ることも可能ではある。ただ、なんかもう、明らかにそういうのを超える世界への扉を開いてくれる本なのだこれは。

また、単なる固有名詞・事実の羅列ではなく、科学者たちの悲喜交々なエピソードを交えて生き生きと描かれているのでむちゃくちゃ面白いし、取材量がすごい。
教科書に載ってる偉人たちももちろん出てくるが、不遇にも歴史の中に埋もれていった人たちも取り上げてくれているのが嬉しい。(それでもこぼれ落ちてしまった unsung な人たちもきっと多いのだろうが)

  • ニュートンの超絶やばさ(良くも悪くも)に感銘を受ける(p.100~)
  • キャヴェンディッシュもそこまで多才な超天才で奇人であったとは(p.127)
  • アインシュタイン「(ノートを持ち歩く)必要はありませんよ。着想を得ることはめったにないですから」(p.250)
  • 神童ドルトンさん、12歳で学校の責任者になる(p.275)
  • ハイゼンベルクマトリックスとは何なのかさえ、わたしにはわからない」!(p.291)

同時に災害への恐怖も強くなった。

  • 東京は「死を待つ街」と言われてるらしい(p.411)、恐ろしい。本書は東日本大震災の前に書かれたとはいえ、まだ「富士山」がある
    …と思ってたら能登地震が起きてしまった。
  • イエローストーンの超火山が爆発したら地球滅びそう(p.437)。怖い。
  • 隕石が衝突したら地球滅びそう(p.395)。怖すぎる。

人類は今すぐ愚かな戦争やめてそれら破局の回避策を考えるべきやろー(宇宙船地球号!)、と思うのだが。

その他小ネタ

私なぞが言うのもおこがましいですが、訳も正確かつ読みやすくてすばらしい。
例えば p.344「加速的」、これ「加速度的」という(間違った)表現のほうがはるかに普及してる。もちろん「性癖」も本来の意味で使われている(p.101)。

ちなみに今回の帰省ではこの上巻だけ持ってったのだが、原注が「下巻末」にあるので読めない!のがかえって良かったかも。いちいち行ったり来たりせずにサクサク読めるし、別に原注を読まなくても内容は十分理解・享受できる(まだ読んでないし)。

  • p.55 冥王星 Pluto の由来が面白い
  • p.108 「ハレーには『魚の歴史』が支給されることになった」ww
  • p.273 原子の寿命は1035年とも言われてる…それ永遠やん

〈脳と文明〉の暗号

2023/11/5 - 12/29 で読了。
サザンの名曲「01MESSENGER」をちょっと偲ばせる表紙。あの池谷先生が帯で褒めてるぐらいなので間違いはなかろう…と読みはじめた。

たしかに面白かった。「暗号」というのはやや超訳(≒跳躍)が過ぎるかもしれないが。

「言語や音楽は、自然界を模倣している」というのが本書の主張。1~2章で言語、3~4章で音楽を扱っている。
これはいわゆる「芸術のお手本は自然」みたいなレベルの話ではない。言語や音楽を構成する要素のほうが、自然界で起きる様々な現象に酷似しているという驚くべき説なのだ。

我々は日々当たり前のように文字を読む。文字なしの生活、文明など考えられない。文字を読むことはまるで人類の「本能」であるかのようにすら思える。
しかし、人類の長い歴史の中では、文字がなかった時代のほうがはるかに長いはず。読み書きなんていう「曲芸」を、人類はどうやって・いつの間に獲得したのだ?
……文字を読み書きできるよう「になった」んではなく、もともと知覚できてたようなものを「文字」(≒言語)にしたんでは?!!
という発想から、言語がいかに自然界の音(ぶつかる、すべる、鳴る)に似た要素で構成されているか、を地道に検証していく。そのだんだん仮説が裏付けされていく過程が面白い。

では「音楽」の起源は?!と気になった人は本書を読んでみるといいと思う。(残念ながらセックス音ではなさそう)

気になったところ

  • p.15 ホモ・チューリンギピテクス
  • p.61 努力すれば毎分750語近く話せる!? 12.5 words/s ??
  • p.64 液体をばっさり除外するのは乱暴では?「ドボン!」「ぱしゃっ!」とかあるやん
  • p.74 この三種類で本当に必要十分なのか?
  • p.94 内破音
  • p.101 破裂音が有声か無声かによるVOTの違い このへんから「科学的」っぽさが増して面白くなってくる。
  • p.104 「とくに t と k は、有声の文字より複雑な構造」かぁ? d と g も同程度では?
  • p.107 bad と bat の母音の長さの違い。bad のほうが長くなると言うが…英語話者なら同意するのか?
  • p.149 日本の「止まれ」の道路標識 = V
  • p.155 音楽の四条件?「脳、感情、踊り、構造」は(同意はできるけど)唐突感ある。根拠も示されてない
  • p.175 earworm
  • p.196 movement = 楽章
  • p.201 音楽はリズムが命…Dr. Capital!!
  • p.255 メロディー=ドップラー効果起源説。自然音のドップラー効果にそこまで「彩り」はない気がするが?
  • p.258 tessitura
  • p.348 「(動作主が)直進しているときは、(音高の変化は)下方向しかありえない」が理解できず。自分に近付いてくるときは上がるのでは?

残念なところ

やけに「逆」な間違いが多かった。もしや横書きの原書を縦書きにしたときに間違えた?

  • p.108 縦横の説明が逆では?
  • p.221 付点四分音符と八分音符…少なくともどっちかは拍子に合ってるのでは?「合っていない」の定義がよくわからず。
  • p.244 (a) 音高は最も高い低い
  • p.292 ×役不足
  • p.302 35「ニュートンの音楽第一法則」の説明が左右逆!
  • p.352 図表49内の説明が上下逆!