武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

チャップリンとヒトラー――メディアとイメージの世界大戦

2023/1/1-2、実家で読了。
ぬまがさ先生の激賞を見て11/20に買ったが、重そうなのでしばらく積んでた。
12/25ちょうど八丁座で『独裁者』上映+著者・大野裕之さんの舞台挨拶があり、どちらにも非常に感銘を受けたので、正月休みに一気に読んだ。

凄かった。そしてめちゃくちゃ面白かった。

正直チャップリンのことは『独裁者』を観るまであまり知らなかった。「映画の初期に世界的大スターになった喜劇役者」ぐらいに思ってて、それもそのとおりなのだが、あそこまで高邁な人物であったとは。
映画『独裁者』に普遍的な価値・強度を与えたラストの演説は観てる間も圧倒的に胸を打ち感涙を誘ったが、「これは“喜劇”映画じゃないよな・・・」というのはわかった。
大野さんの解説で「たとえ(興行収入が)500万ドル減ったところでかまうものか」(p.178)という覚悟で撮られたことを知り、感動とチャップリンに対する畏敬の念がさらに強まった。

そしてこの本もめちゃくちゃ面白いし凄い。
情報のものすごい密度、それを渉猟・収集したいわゆる「熱量」が凄い。さらっと書いてあるけど、この1行書くためにどんだけ調べたんやろという記述が多数。巻末の注に出てくる出典の量がやばい。特に8章が圧巻でした。
チャップリン家所蔵」資料に負うところも大きいのだろうが、そういうのってささっとググれるもんでもなさそう。
そもそもチャップリン家がしっかり記録取っててくれたのにも感謝すべきだろう。記録は大事!

チャップリンの完璧主義にも驚かされる。「演説」のメモだけで千枚超、約2年もかけて、ギリギリまで練りに練っていた。
「地球儀のダンス」も1年近く推敲され、ひと月近くかけて撮り直してる。
現代なら予算や納期の都合でそこまで手間かけるのは難しいんではないか。チャップリンのそれまでの成功があったからこそできた奇跡的な大作とも言えるだろう。

『独裁者』制作の詳解がメインなので、観てから読むのがいいと思う。
本作り的な細かいところでは、目次の各見出しにページ数が振ってあるのが地味に親切。まさにとっても便利w
誤字脱字の類が一切ないのも良かった。