武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

ヴァリス〔新訳版〕

山形さんによる新訳版を読みました。

最初からずーっと予想外の展開で、面白かった。

半分ぐらいまではSF要素ほぼ皆無で、精神病者またはLSD中毒者の妄想の手記みたいな記述が続く。これはこれで、凄い、純度高いキチガイ描写や…!と思うけど。

グノーシス、ドゴン族(←シリウス)、パラケルスス、アストラルなんたら、チャクラなど「名門」っぽいネタが詰め込まれ、これはヒッピーたちに受けたやろなー、『かもめのジョナサン』の上級版的位置付けで。(と思ったがヴァリスは1981年刊、わりと新しい。ジョナサンは1970)

 

後半やっと(急激に)SFらしくなり、『幼年期の終わり』っぽさも出てくる。

最後はなんと、一致団結してオカルト方面に邁進!するかと思ったら現実に戻ってきて、でもそっち方面の探求もエージェント通じて継続でよろしく!という二兎を追うような、巧いのかずるいのかわからん終わり方。

どっちつかずとも言える、不完全燃焼感はある。風呂敷は徐々に畳まれそうな希望はあるけど…という。

 

ただ「訳者あとがき」を読むと、そこはディック自身の迷い―自身の「神学」を追究すべきなのか、いやこれは単なる狂人の妄想で「現実」を見て生きるべきなのか?の表れなのかも。

本作には筆者の実体験も織り込まれてる、「トラクタテ」も実在した!というのは驚きだった。ほんまに身を削るように、現実/妄想と戦いながら書いてたんかなあと思う。

たしかに「問題作」でした。