武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

愛はさだめ、さだめは死

久々に電車通勤になったので10分/日ぐらいずつちびちび読み進め、2018/6/3読了。

思えば2016年。SFアイドル(でもある)西田藍さんが「接続された女」を書評なさってたので買ったのだった。行きの新幹線で読みはじめ、東京でそのことを話すと「もう接続されました?」と言われたことを覚えてる。神店ガルむすはもうなくなってしまったけれど。

頭いかれてる感じの実験的な作品が多い。表題作がまさにそうやし、その世界観・ルールが最後までよくわからない話もある。なんと言うか、すごい「尖ってる」短篇集。

そんな中、「接続された女」は比較的「小説らしい」と言える。面白かった。

「男たちの知らない女」が、ちょっと戦慄すべき作品だった。主人公フェントンがやや典型的すぎるきらいはあるが、女性から見た男性のどうしようもない蒙昧さ、絶望的な隔たり。筆者が女性と知ってて読んでるから「なるほど…」とも思えたが、発表当初はいろいろ物議を醸したんではないか?

大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ

2018/5/25、京都の手前で停まってたのぞみ64号で夜を明かしつつ読了。

非常に読みやすく面白かった。

タイトルが恥ずかしすぎる気がするが、これは商売上やむを得ずつけたとかなんとか。(ただ『シン・ゴジラ』の章で韓国や中国の俳優を引き合いに出す必然性はないと思った)

爆撃ヒット作『君の名は。』解説で、さすが由緒あるオタクの人は深く・広く見て(読んで)るわ~、とさっそく感銘を受けた。そないフラクタル構造やったとは!? そしてまさか『大日本人』が出てくるとはw(ロサ会館あたりで観たっけ?)

宮崎駿監督の凄さも思い知らされた。ナウシカ全7巻(完結したのは中2の時!)、高校の時買ったけど、話はほとんど覚えてなかったな…。我々はなんと偉大な人を同時代人として享受できたことかッ!

総じて、岡田さんのアニメ・エヴァンジェリストとしての使命感がよくわかった。

Clean Coder プロフェッショナルプログラマへの道

2018/5/4、実家で読了。

多くの人が推薦してる、アジャイル界隈では有名らしい「ボブおじさん」が書いた本。

Clean Coder プロフェッショナルプログラマへの道

Clean Coder プロフェッショナルプログラマへの道

 

書名に "Code" が入ってるが、意外にも「精神論」の本であった。

否定的な意味ではなく、「プロならこう振る舞うべき」という心構えの書。ソフト開発ってけっこう「遅延、炎上は日常茶飯事」という空気が瀰漫しがちな業界だが、そこに「それはプロじゃないよね」と釘を刺すような論調。なので「まあ正論。実際やるのは難しいけど…」とか思いながら読んだ。

内容は『達人プログラマー』を薄めて技術論を削った感じか。

期待してた技術的要素として、印象に残ったのは以下のような点。

  • ペアプロ有益
  • TDD必須。効果あるなしを論ずるまでもなく、「外科医にとっての手洗い」ぐらい当然やるべきこと
  • gitはいいぞ
  • IDE超便利、もう戻れない

 

しかしこの本から得られる一番の収穫は、著者の「人間くささ」が窺い知れるところではないか。

著者の経歴を見ると、IT企業興してて、なんかカンファレンスで講演とかもしてて、C++/XP/Agileなどの書籍をいっぱい出してて…「どう見ても神」なのだが、若い頃は一時期失業して引きこもってた、デスマーチしてた時は3000行のC言語の関数を書いて職場で「ペンを投げつけて叫ぶ連中の1人だった」…人間くさいどころかほぼカスである。そんなカス野郎が今は神ってるなんて!これには勇気づけられる。

そう、これは「カリスマハッカーが意識高い話をドヤる」本ではなく、「おじさんが長年の失敗から学んできたことを教えてくれる」本でもあるのだ。(まあ17歳からパンチカードでプログラミングしてたり、やはりファビュラスな経歴をお持ちでもあるのだが)

 

ジョジョネタ(ポルナレフ)がさりげなく挿入されてたり(これは訳者のジョークと思われる)、全体的に軽妙ですいすい読めるけど、p.80のここはクソワロタ。

 ある日、モジュールを見直すことがあった。それは、ピンク・フロイドザ・ウォール」のオープニングを聞きながら書いたものだった。コードのコメントには、曲の歌詞と爆撃機や泣き叫ぶ赤ん坊のことが書かれていた。

 衝撃を受けた。そのコードを読むと、解決する問題ではなく、作者(私)の音楽コレクションが学べるのだ。

 

社会学入門

2018/5/3、実家で読了。(積ん読をわずかに消化)

社会学入門 〈多元化する時代〉をどう捉えるか (NHKブックス)

社会学入門 〈多元化する時代〉をどう捉えるか (NHKブックス)

 

2007年の明治学院大学1年生向け講義を土台に、大幅加筆した本。「入門」だけにたいへん体系的でわかりやすく、よくできた教科書という感じ。これから社会学に携わる可能性ほぼ0の私にも勉強になりました。

デュルケム、ウェーバー社会学の「二大巨頭」、メインディッシュとしつつ、そこに至るまでの背景を時系列で丁寧に解説してくれる。社会学という学問が置かれてる微妙な立場、社会学」を定義することの難しさがよくわかる。テレビに出てる「社会学者」のネタ元もなんとなくわかった気になれるかもしれない。

 

例によって参考文献の数がすごい。学者のみなさんはこんなに本を読んでるのか~。見習いたい。

『寝ながら学べる構造主義』2002年が純粋に「よい本」と紹介されてるとこに隔世の感があります。

少女地獄 (角川文庫)

2018/4/28、帰省中ののぞみ98号で読了。

少女地獄 (角川文庫)

少女地獄 (角川文庫)

 

書評家アイドル西田藍さんがホンシェルジュで紹介なさってたのを見て、教養のため、というか純粋なスケベ心で買ったのだったが・・・

honcierge.jp

面白い。80年以上前に書かれたとは思えないほど。たまーに読めない漢字も出てくるが、そのへんは適当に調べつつ、面白くてぐんぐん読んでしまう。

夢野久作といえば狂気実験ドグラ☆マグラがあまりにも有名だが(学生時代読んだけどもうあの擬音ぐらいしか覚えてない)、たしかにあれは長い。なので、未読の人はまずこっちで「味見」してみるのもよいと思う。


1930年代といえば今より「人権意識」などはるかに低かったであろう、婦人参政権もまだない、そんな圧倒的男性優位の時代に、ここまで女性(弱者)視点の作品が書かれていたことに驚嘆した。2010年代ですら「狂わせガール」なんつって「魔性の女」「何考えてるかわかんない怖い女」みたいなキャラが成立してるというのに。何この先進性?(これはおそらく著者が今で言う「草食系」、非マッチョ気質だったから、というのが大きな理由ではないか。なんせ「夢野久作」やしw)

 

外はスゴイ月夜であった。…「けむりを吐かぬ煙突」

巨大なダイヤの指環がギラギラと虹を吐いた。…「女坑主」

など、ステキすぎる表現も満載でシビレます。

 

なお、表題作『少女地獄』「何んでも無い」篇の絶対的ヒロイン・ 姫草ユリ子の実写版を制服アイドル西田藍さんが演じてらっしゃるので、まともな感性の持ち主なら買うしかありません。

白衣の天使に誘われて 西田藍 必撮!まるごと☆

白衣の天使に誘われて 西田藍 必撮!まるごと☆

 

歴史修正主義とサブカルチャー

Twitterでマスダ先生が絶賛されてたので購入、2018/4/22読了。

ソフトカバーのわりに内容はなかなか硬派でした。

歴史修正主義とサブカルチャー (青弓社ライブラリー)

歴史修正主義とサブカルチャー (青弓社ライブラリー)

 

ネトウヨや「日本スゴイ番組」などに象徴される昨今の歴史修正主義、排外主義の跋扈に対し、反知性主義(≒アホ)」「想像力の欠如(≒バカ)」「民度の劣化、嘆かわしい」で済ませるのではなく、なぜ「彼ら」はそこまで力を持ってしまったのか?を、複数メディアを横断する「コンバージェンス文化」という視点で分析しようとする意欲的な試み。「冷静に敵の手口を見極めよう」ということ。自分の2~3学年下の人がこんなしっかりした仕事をされてることに襟を正させられる思いで読みました。

ヘンリー・ジェンキンスが唱えた「コンバージェンス」という概念が最初に軽く紹介され、もしや(IT業界の一部ではおなじみの単語ではあるが)目新しい学説を輸入して言い換えてみるだけなんでは…?とも懸念したが、まったくの杞憂だった。主に90年代の産経周りからの「論壇」の変容を、膨大な資料・文献を調べてしぶとく解析していく。マルコポーロ』廃刊は同時代で見てたけど、ゴーマニズム宣言』がそこまでネトウヨ養成に貢献してたとはなー。全然読んでなくて知らんかった。

多少アカデミックな語法は出てくるけど、必要に応じてという感じで、難解で読みづらいというほどではない。無駄にアマルガムとか言わない。「エピステーメー」は出てくるw(括弧つき)。

あとつまらん意見ではあるが、誤字・脱字、主語述語の不対応といった瑕疵が「一つも見当たらなかった」。これは当たり前ではなく、けっこうすごいと思う(最近の本は誤字脱字がないのを挙げるほうが難しい)。丁寧に書かれてる証拠だと思う。

シャンペン・スパイ

2015/1/31に読みはじめ、ずっと積んでて、2回目の広島引っ越し後再開、2018/4/21やっと読了。

ノビー読者にはおなじみ『モサド、その真実』の人の自伝です。

シャンペン・スパイ (ハヤカワ文庫 NF (116))

シャンペン・スパイ (ハヤカワ文庫 NF (116))

 

導入部の主要登場人物たちが次々出てくるところはしんどかったが(名前覚えられへん)、エジプトでのスパイ活動が本格化してからは面白すぎて止まらず、路面電車の中で立っててもつい読んでしまうほど。

能やん!浄瑠璃やん!スパイ映画やん!!な華やか煌びやか波瀾万丈なスパイ人生が惜しげもなく語られる(100%事実かはともかく)。凄すぎる。

著者の強靭な精神力、行動力、判断力もさることながら、いつ誰が何を話したとかの記憶力も凄い。多少の脚色や改変もあるのかもしれんが、物・事・人すべてにおける博覧強記というか。さすが「世界最強のイスラエル諜報機関」やでえ・・・

最愛のパートナー、ウォルトロードの活躍ぶりも眩しい。あまりにも映画的なお二人。

エピローグまでしっかり感動的。この人物の偉大さ、使命感、人類愛が表れている。

スパイや馬の育種家にはならへんにしても、この人のように誇り高く生きたいと思う。