武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

この人はなぜ自分の話ばかりするのか

3連休最後の2016/7/18、図書館に返すため急いで読了。

この人はなぜ自分の話ばかりするのか―こっそり他人の正体を読む法則

この人はなぜ自分の話ばかりするのか―こっそり他人の正体を読む法則

 

原題は reading people「人を読む」、なので邦題はかなり意訳、misleading とさえ言えるかも。「自分の話ばかりする」人のことをもっと読みたかったのだがw、それは何種類もある人間の言動パターンの一例として触れられるに過ぎない。

著者は日本人にはおそらくぴんと来ない「陪審コンサルタント」という職業(陪審員を決めるときのアドバイスとかするらしい)のカリスマ的存在であるらしく、短期間の間に「陪審員候補」たちが発する情報を漏らさず読み取り、重要な人選をしなければならない。その『人読み』の極意を伝授してくれる本。

なのだが、ちょっと長くて散漫な印象を受けてしまった。訳はわりと自然で読みやすいのですが。前半は概論的な話がメインで、後半はけっこう具体例が出てきて面白くなってくる。

要点はいっぱいあるけど、例えば

  • その人の「普段」のパターンから外れた特徴に注意
  • 大きな声や派手な服装など、一見目立つ特徴がどれだけ意味を持つかは、育ち、時代・地域、周りの状況、体調、時間帯などによって変わる。一つ・一時の特徴だけで一概には言えない
  • 職場の机上、自宅、車などはその人をよく表す
  • 客観的に人を判断するのは難しいが、そうできるよう努めよう
  • 話してる内容そのものより、口調、視線、仕草などの非言語的な部分が重要
  • 言葉よりも行動を信用しよう
  • 相手の話をよく聞いてあげよう
  • 店員に横柄な態度を取る奴には注意
  • 直感も大事。要は経験知(データベース)

んん、ま、そらそうやろね…(知ってた…)な話が多い。いや、もしかしたらこの本のおかげで常識になった命題もあるのかもしれないが。

ただまあ、偉大な仕事を成し遂げるには、当たり前のことをさぼらず丁寧にやることが大事、ということなのかもしれんな。

あと、俺も「人間観察」もっとするべきやな、と思いました。ゲーム感覚でもいいので。

 

p.33 母の言葉がわりと名言*1

「お腹が空いている時に買い物しちゃだめよ」

 

*1:この本、全体的に「母」の名言多い

太陽の季節

石原慎太郎。といえば、俺ら30代ぐらいの世代には

老害、マッチョ、ドチンポ野郎、レイシスト、新東京銀行中原昌也氏がボロカス書いてた、

といったネガティヴな印象が強いのではないか?

なんか昔は太陽族なんて流行もあったみたいやけど。都民がなんでそんなに何回も選ぶのか不思議、アホなの?ぐらいに思ってた。

 

しかし、西田藍さん(女神)がお書きになったこの記事を読んで

honcierge.jp

目から鱗というか、ああ彼は人気作家だったのだ(だからこそ芥川賞の選考委員もしてたのだろう*1)、大人たちから恐れられる不遜な若者だったのだ、という当たり前の事実に気づかされた。

作品と人物は別! 食わず嫌いはいかんよ!

 

てことで読んでみました。印税的な理由で図書館で借りて、2016/7/10読了。

太陽の季節 (新潮文庫)

太陽の季節 (新潮文庫)

 

まー酷いw。こら嫌われるわ。

金持ちのクソガキどもが特に悪意も思い入れもなく好き放題やって自滅する話が多い。戦後たった10年でもそんな階級がいたのかということにも驚く。「恐るべきボンボンたち」ちゅう感じ。と思ったら「灰色の教室」冒頭で『怖るべき子供たち』が引用されてたりするので、意識的にそういうのを描きたかったのか。

 

ミソジニーというより、女性をほぼ物として扱ってるような鬼畜男ばかり出てきて、笑っちまうほどだがやはり笑えない。当時の女性は立場弱くてかわいそうやなと思った、避妊も普及してないみたいやし。

大半の話の主人公が「気取った女を、暴力で征服した挙句破滅させる、不敵な男」。もうこの作者病気やろw。いや、「俺はこういう奴だ!」なのか「こういう意識低い奴らの世界を描いたんだ!」なのかはわからんが。両者は混ざってる気もするな。

今なら(今でも?)即炎上→社会的に抹殺されそうな案件ばっかり。ナンパした女子2人のビールに睡眠薬入れて拉致とか。60年前も野蛮やったのね日本。

しかしこの人を知事に選ぶとは、都民、懐広いんかな…とか思ってしまう。 

有名な障子シーンは今読むとむしろ牧歌的なほど。村上龍さんの方がよっぽど露悪的なこと書いてるで! 勝新の米俵に比べたら遥かにソフトモードやし!とも思う。

 

ただやはり、作家としては巧いと思う。二十歳そこらで既に独特の文体を持ってるし、ぐんぐん読ませる、「やるな~」と思う。文庫の解説で奥野健男さんが「こいつぁムカつくけど確かにすごい、新しい、今後に超期待!!」みたいに書いてるのもわかるな。

*1:『乳と卵』くさしてた時はむかついた

鴨川ホルモー

宵山の2016/7/16、十年前のベストセラーを読了。超今更ですが。

むっちゃ面白かった!!

鴨川ホルモー

鴨川ホルモー

 

四条通をアビー・ロードに見立てたキャッチーな表紙、タイトルからしておそらく京都ローカル色を押し出した話なのだろう、その辺がどうにもあざとい感じがして、出た頃はあまり興味が持てなかった。要は「京都、いいよね」なヨソの人がありがたがるのだろうと。

しかし卒業してはや14年*1、もはやとっくにヨソの人になった私も「京都、いいよね」側の人間になってしまってる。ので抵抗なく読めましたよ。あと、何かのインタビューで万城目さんが喋ってた記事を読んで「この人おもろいな」と思ったからってのもある。

 

あらすじとか「ホルモー」の解説とかはたぶんもう有名なのだろうから端折る。

舞台は現代京都でありながら、そこにこのすこし・ふしぎな世界観を創り出して(いや、ある種の人々にとっては現実かもしれんがね)かぶせた、「文学のARや~」な手腕には感服し、最後まで面白く読めました。

文章は難しすぎず簡単すぎず、とはいえ非常にリーダボ~、いい意味の「いか京」さを感じた。安心して読める娯楽作品。

 

「ホルモー」とともに本作の柱である「恋」については……

今時のガキにしては奥手すぎやろ主人公、あと後半の展開ベタすぎやろw*2という歯痒さもあったが、これくらいの方が全年齢向けにできていいのかも。

などと書きつつ、「わかるぞ少年! つらいよな!!w」というのが一番思ったことでした。いやはや、恋というのは体にいい成分も入ってるのでしょうが、だいたい厄介なものであるなあ。

 

っつうことで万城目さんの他の作品も読んでみよ~

*1:最初「何やこのミッフィーのパチモン」と思ったひこにゃんも気づけば10周年、もはや大御所面。時の流れは残酷なまでに速い。

*2:さすがに美少女が食パンくわえて走ったりはしません

カエアンの聖衣〔新訳版〕

今年鳴り物入りで新訳されたこの本を読みました。

ワイドスクリーン・バロックSF」というらしい。あのA. ベスターもそう分類されるとか。

すごい奇想天外(荒唐無稽?)な面白い話でした。

「生物は gene の乗り物」風の話として「人類は特殊な衣類(○○的○○を持つ繊維)の乗り物」というある意味トンデモ meme、が40年の時空を経て現代の日本で興奮を持って読まれる・・という、壮大な状況もすごいと思いました。

 

原題は THE GARMENTS OF CAEAN 「カエアンの服」なので、聖衣というのはちょっと意訳っぽいけど、まあ内容的にはふさわしいんかな。聖闘士聖矢の黄金聖衣(ゴールドクロス)とかの表記にも影響与えてるかもしれない。

私は『グレンラガン』も『キルラキル』も見てないのであれですが、いま調べたらGAINAX(とそのスピンアウト会社)が作ってたのですね。また見たいなあ。

あとそういや、特殊スーツ着たら戦闘力爆謄、ていう設定は去年観た『KINGSMAN』にも通じてるな。やはり英国人はスーツフェチなのか・・・

ヒッキーヒッキーシェイク

久々にハードカバー小説を買って読みました。

ヒッキーヒッキーシェイク

ヒッキーヒッキーシェイク

 

津原泰水さんのことは『五色の舟』の原作者ということだけ知ってたのだが、下記tw見ておおおっ!?となった。

ある意味「表紙・西田藍」やん……!!

これだけで買う理由として十分なのだが、クラウス・フォアマンとは?って調べたら、なんと『リボルバー』のジャケット描いた人そのものなのか。生ける伝説やんか!*1

そして津原さん自身も広島出身とのこと。

もう買う理由しかない…もし中身が気に入らんくても、ジャケ買いとして本棚にあっても十分……というミーハー心(地元愛?) で買いました。

 


面白かったです。最後までどうなるのかわからない・誰が真の敵なのかわからない展開。

紙数が残り少なくなって、これどうやって収拾つけるんやろ、思ってたら最後は早送り(というかスキップ)のような急展開。やや寂しい、でも希望(ハートの9)も感じさせる終わり方でした。

 

「ヒッキーズ」の一員である日米ハーフ美少女、パセリこと「乗雲寺芹香」の設定にはおそらく何割か西田藍さんの要素が入ってるであろうと思われ、実在アイドル小説としても興味津々で読めました(いやだいぶ改変されてはいますが)。

 

「凄腕ハッカー」(作中では“ウィザード”と称される、ハクティヴィストではない)同士の対決、というのも物語の大きな要素。坂村健先生ほどじゃないけど、私も職掌柄、そういうネタでは無茶な描写が出てこないかドキドキしてしまうのだが、そこはそんなに破綻はなかったかと(適度に抽象化されてるので)。

ただ、「プログラム言語が流れ落ち」のくだりだけんん?となった。(スクリプトを相手のコンソールに流したってことかな…傍受されたら危ないと思ったけど……うん、きっとそう…)

 

地名はわずかにぼかされてるけど主人公の竺原(ジクハラ、最後まで読みにくかったすw)は広島出身で、可部線であろうトリコロールな車両も出てきたりする。「お亀」など地元民はバリバリ広島弁で喋ってくれるので、広島の人にもお薦めです。

*1:さらに調べたら横尾さんの方が年上や!

21世紀のための吾妻ひでお

システム監査技術者試験に落ちた失意の夜、珍しく早めに上がれたので丸善で買って帰り、翌朝読了。

復刻本というかやや豪華本な感じで漫画としてはわりと高価なのですが、うしじまいい肉さんのエロかわいい表紙、これだけでも価値がある!と自分を説得した。

21世紀のための吾妻ひでお Azuma Hideo Best Selection

21世紀のための吾妻ひでお Azuma Hideo Best Selection

 

1980年前後(俺の生まれた頃!)の作品の中から山本直樹先生が選んだ作品集。山本さんの解釈によると、その頃が「やけくそ期」と「不条理期」の境目にあたるらしい。

たしかにやけくそor不条理な作品ばかり、で、やりたい放題。あとがきで吾妻先生が“「もう仕事なくなってもいいから好きなこと描こう!」と思っちゃった”と書いてる通り。伸び伸びしてるなー。

あとは筒井康隆の短編のようないわゆるスラップスティック感が強い。解説でも言及されてるように、コマとコマの間の飛躍、展開の速さがすごい。ほぼ無茶苦茶、でも面白かった。『ちびママちゃん』33話いいなあ。

 

いちファンとしてリアルタイムに読んできた編者の貴重な証言を交え、でもWikipediaにもかなり頼りつつw、のゆる~い解説も良かった。

ユービック

2016/6/12、梅雨真っ盛りの夜に読了。 

SFマガジン2014/10月号の企画「PKD総選挙」で栄光の1位を獲った作品。やっと読めた。

ちなみにそれは私の崇拝する西田藍さんがSFM史上初の「カバーガール」を勤めた記念すべき号でもある。思えばそこからすべてが始まったのだ…。電気羊Tシャツも当然買った。今年の2月には下北沢のトークイベントに行って握手をしてもらえるまでになった。creep かつ weirdo な私が、生身のアイドルに "認知" されたのだ。これは夢ではないのか? もういっそそこで人生終わりでもよかったんでは?

余談が、過ぎた。

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

 

さてこのPKDファンに大人気の1冊。雑に言うと「現実崩壊もの」とでも言うのだろうか。この先どうなるのかわからない、どころか「今どうなってるのか(正確には)わからない」とすら言えるミステリアスな作品で、全編通して陰鬱な緊張感に満ちており、スリリングに読み進めることができた。要は、非常に面白かった。

ミステリとして読むと、途中から「ああ実はこの世界がアレで」「あ、たぶんこの人はあの」なんて予想したり解釈したりもできるが、そんな単純な理解を許さないような仕掛けもあり、とにかく「多様な解釈」が可能。読み終わっても、わかったようなわからんようなモヤモヤは残る。ハッピーエンドとも言いがたいし。

これが「SF通」の中で1位になったのもなんかわかる気がした。

ビートルズ通の中で "I am the walrus" が1位になるのと似てる気がする。何かよくわからない、複雑、でも深い意味がありそう、そして何より技巧を凝らしててかっこいい(ってエヴァンゲリオンくさいなw)。そういうのみんな好きよねー。

いやー、ディックはやっぱ面白い!!

 

というわけで、ハヤカワさんにはこのTシャツ再販してほしいです。