武書房

GREEのレビュー機能が終わるので今後はこっちに書きます。

鴨川ホルモー

宵山の2016/7/16、十年前のベストセラーを読了。超今更ですが。

むっちゃ面白かった!!

鴨川ホルモー

鴨川ホルモー

 

四条通をアビー・ロードに見立てたキャッチーな表紙、タイトルからしておそらく京都ローカル色を押し出した話なのだろう、その辺がどうにもあざとい感じがして、出た頃はあまり興味が持てなかった。要は「京都、いいよね」なヨソの人がありがたがるのだろうと。

しかし卒業してはや14年*1、もはやとっくにヨソの人になった私も「京都、いいよね」側の人間になってしまってる。ので抵抗なく読めましたよ。あと、何かのインタビューで万城目さんが喋ってた記事を読んで「この人おもろいな」と思ったからってのもある。

 

あらすじとか「ホルモー」の解説とかはたぶんもう有名なのだろうから端折る。

舞台は現代京都でありながら、そこにこのすこし・ふしぎな世界観を創り出して(いや、ある種の人々にとっては現実かもしれんがね)かぶせた、「文学のARや~」な手腕には感服し、最後まで面白く読めました。

文章は難しすぎず簡単すぎず、とはいえ非常にリーダボ~、いい意味の「いか京」さを感じた。安心して読める娯楽作品。

 

「ホルモー」とともに本作の柱である「恋」については……

今時のガキにしては奥手すぎやろ主人公、あと後半の展開ベタすぎやろw*2という歯痒さもあったが、これくらいの方が全年齢向けにできていいのかも。

などと書きつつ、「わかるぞ少年! つらいよな!!w」というのが一番思ったことでした。いやはや、恋というのは体にいい成分も入ってるのでしょうが、だいたい厄介なものであるなあ。

 

っつうことで万城目さんの他の作品も読んでみよ~

*1:最初「何やこのミッフィーのパチモン」と思ったひこにゃんも気づけば10周年、もはや大御所面。時の流れは残酷なまでに速い。

*2:さすがに美少女が食パンくわえて走ったりはしません

カエアンの聖衣〔新訳版〕

今年鳴り物入りで新訳されたこの本を読みました。

ワイドスクリーン・バロックSF」というらしい。あのA. ベスターもそう分類されるとか。

すごい奇想天外(荒唐無稽?)な面白い話でした。

「生物は gene の乗り物」風の話として「人類は特殊な衣類(○○的○○を持つ繊維)の乗り物」というある意味トンデモ meme、が40年の時空を経て現代の日本で興奮を持って読まれる・・という、壮大な状況もすごいと思いました。

 

原題は THE GARMENTS OF CAEAN 「カエアンの服」なので、聖衣というのはちょっと意訳っぽいけど、まあ内容的にはふさわしいんかな。聖闘士聖矢の黄金聖衣(ゴールドクロス)とかの表記にも影響与えてるかもしれない。

私は『グレンラガン』も『キルラキル』も見てないのであれですが、いま調べたらGAINAX(とそのスピンアウト会社)が作ってたのですね。また見たいなあ。

あとそういや、特殊スーツ着たら戦闘力爆謄、ていう設定は去年観た『KINGSMAN』にも通じてるな。やはり英国人はスーツフェチなのか・・・

ヒッキーヒッキーシェイク

久々にハードカバー小説を買って読みました。

ヒッキーヒッキーシェイク

ヒッキーヒッキーシェイク

 

津原泰水さんのことは『五色の舟』の原作者ということだけ知ってたのだが、下記tw見ておおおっ!?となった。

ある意味「表紙・西田藍」やん……!!

これだけで買う理由として十分なのだが、クラウス・フォアマンとは?って調べたら、なんと『リボルバー』のジャケット描いた人そのものなのか。生ける伝説やんか!*1

そして津原さん自身も広島出身とのこと。

もう買う理由しかない…もし中身が気に入らんくても、ジャケ買いとして本棚にあっても十分……というミーハー心(地元愛?) で買いました。

 


面白かったです。最後までどうなるのかわからない・誰が真の敵なのかわからない展開。

紙数が残り少なくなって、これどうやって収拾つけるんやろ、思ってたら最後は早送り(というかスキップ)のような急展開。やや寂しい、でも希望(ハートの9)も感じさせる終わり方でした。

 

「ヒッキーズ」の一員である日米ハーフ美少女、パセリこと「乗雲寺芹香」の設定にはおそらく何割か西田藍さんの要素が入ってるであろうと思われ、実在アイドル小説としても興味津々で読めました(いやだいぶ改変されてはいますが)。

 

「凄腕ハッカー」(作中では“ウィザード”と称される、ハクティヴィストではない)同士の対決、というのも物語の大きな要素。坂村健先生ほどじゃないけど、私も職掌柄、そういうネタでは無茶な描写が出てこないかドキドキしてしまうのだが、そこはそんなに破綻はなかったかと(適度に抽象化されてるので)。

ただ、「プログラム言語が流れ落ち」のくだりだけんん?となった。(スクリプトを相手のコンソールに流したってことかな…傍受されたら危ないと思ったけど……うん、きっとそう…)

 

地名はわずかにぼかされてるけど主人公の竺原(ジクハラ、最後まで読みにくかったすw)は広島出身で、可部線であろうトリコロールな車両も出てきたりする。「お亀」など地元民はバリバリ広島弁で喋ってくれるので、広島の人にもお薦めです。

*1:さらに調べたら横尾さんの方が年上や!

21世紀のための吾妻ひでお

システム監査技術者試験に落ちた失意の夜、珍しく早めに上がれたので丸善で買って帰り、翌朝読了。

復刻本というかやや豪華本な感じで漫画としてはわりと高価なのですが、うしじまいい肉さんのエロかわいい表紙、これだけでも価値がある!と自分を説得した。

21世紀のための吾妻ひでお Azuma Hideo Best Selection

21世紀のための吾妻ひでお Azuma Hideo Best Selection

 

1980年前後(俺の生まれた頃!)の作品の中から山本直樹先生が選んだ作品集。山本さんの解釈によると、その頃が「やけくそ期」と「不条理期」の境目にあたるらしい。

たしかにやけくそor不条理な作品ばかり、で、やりたい放題。あとがきで吾妻先生が“「もう仕事なくなってもいいから好きなこと描こう!」と思っちゃった”と書いてる通り。伸び伸びしてるなー。

あとは筒井康隆の短編のようないわゆるスラップスティック感が強い。解説でも言及されてるように、コマとコマの間の飛躍、展開の速さがすごい。ほぼ無茶苦茶、でも面白かった。『ちびママちゃん』33話いいなあ。

 

いちファンとしてリアルタイムに読んできた編者の貴重な証言を交え、でもWikipediaにもかなり頼りつつw、のゆる~い解説も良かった。

ユービック

2016/6/12、梅雨真っ盛りの夜に読了。 

SFマガジン2014/10月号の企画「PKD総選挙」で栄光の1位を獲った作品。やっと読めた。

ちなみにそれは私の崇拝する西田藍さんがSFM史上初の「カバーガール」を勤めた記念すべき号でもある。思えばそこからすべてが始まったのだ…。電気羊Tシャツも当然買った。今年の2月には下北沢のトークイベントに行って握手をしてもらえるまでになった。creep かつ weirdo な私が、生身のアイドルに "認知" されたのだ。これは夢ではないのか? もういっそそこで人生終わりでもよかったんでは?

余談が、過ぎた。

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

ユービック (ハヤカワ文庫 SF 314)

 

さてこのPKDファンに大人気の1冊。雑に言うと「現実崩壊もの」とでも言うのだろうか。この先どうなるのかわからない、どころか「今どうなってるのか(正確には)わからない」とすら言えるミステリアスな作品で、全編通して陰鬱な緊張感に満ちており、スリリングに読み進めることができた。要は、非常に面白かった。

ミステリとして読むと、途中から「ああ実はこの世界がアレで」「あ、たぶんこの人はあの」なんて予想したり解釈したりもできるが、そんな単純な理解を許さないような仕掛けもあり、とにかく「多様な解釈」が可能。読み終わっても、わかったようなわからんようなモヤモヤは残る。ハッピーエンドとも言いがたいし。

これが「SF通」の中で1位になったのもなんかわかる気がした。

ビートルズ通の中で "I am the walrus" が1位になるのと似てる気がする。何かよくわからない、複雑、でも深い意味がありそう、そして何より技巧を凝らしててかっこいい(ってエヴァンゲリオンくさいなw)。そういうのみんな好きよねー。

いやー、ディックはやっぱ面白い!!

 

というわけで、ハヤカワさんにはこのTシャツ再販してほしいです。

日本会議の研究

話題になってたこの本。hontoで注文したけどずっと品切れで3週間後にキャンセルされた。その後丸善で普通に買えたけど既に第三刷。

近所に最近できたコメダ珈琲でさっき読了。

こう言っては不謹慎かつ無責任だろうが、非常に面白かった。

日本の現与党を牛耳ってるかに見える「日本会議」の「黒幕」に迫っていく様が。

日本会議の研究 (扶桑社新書)

日本会議の研究 (扶桑社新書)

 

著者の菅野完(たもつ)氏のことは、Twitter上で「のいほい」氏としてアニメアイコンの頃から知ってはいた。しかし、会社勤めしながら、こんなに地道な調査を続けておられたとは。すげえな。

 

日本会議」関係者が今の政権中枢に多すぎる、牛耳られてる、という話はちょいちょい見かけていた。しかしそれって原因ではなく結果に過ぎない=そういう奴らはいかにもそういう団体に所属してそう、ってことでは?という気もしていた。

のだが、この本ではその原因(源流か)は谷口雅春が立教した宗教「生長の家」であるとし、綿密で粘り強い取材でその裏を取っていく。この調査のくだりが滅法面白い。

大本教まで遡ったらどうなるのだろうか…?

 

興味持った方、まあ詳しくは読んでみてください。

私も著者への支援として、親父にも買って渡そうと思う。

 

幸福の科学が近年あれほど極右的な言動を繰り返してる理由も窺い知れた気がした。単にネトウヨ票狙いかと思ってたが、もともと「そういう団体」やったのね。(大川総裁の父は「生長の家」の元地方講師。p.294)

 

この本には「保守」陣営からの反発が多いらしいが、不正確なところがあるならどんどん公に批判して、「事実はどうだったのか」を明らかにしていけばいいと思う。

 

僭越ながら、一つしょーもない指摘をさせてもらうと…

挿入されてる図表の解像度が粗く、読みづらいものがあった。ちょっともったいないなあと思う。

ただ、その程度の難点はこの研究成果の価値をいささかも下げるものではない。

カワイコちゃんを2度見る

2016/6/11朝読了。

レビューに「シュール」「よくわからない」みたいな単語も散見されたのでやや懸念はあったが、むちゃくちゃ面白くてびっくりした。

カワイコちゃんを2度見る

カワイコちゃんを2度見る

 

全16編の短編集。表紙からフェティッシュ・エロティックな内容を想像するけど、全体から受ける印象のエロ度はそんなに高くない。胸の大きい女性はいっぱい出てくるけど。どう見てものちの「妻」なむちむちの人も事務員として出てくる。

表題作なんかは特にようわからん、ソフトSFと言えなくもないいわゆるシュール(←便利だが安易に多用するとアホになりそうな単語)な話で、えっタイトルそういう意味やったの?ってなるが、やっぱり面白い。

非常にガロ的(←これも便利だが略)な作品とも言えるだろう。『僕の小規模な失敗』を読むに、作者は意識的にそうしていたはずだが、そんだけガロ的でありながらちゃんと爆笑できるというのも凄い。

 

これを読んだ今、もはや「福満しげゆき」の前に「鬼才」と付けずにはいられない気がしている。